介護現場の課題に風穴を! 北九州市の「黒船デイサービス」

存在感抜群! 住宅街にある長さ約2メートルの大砲
記事 INDEX
- ビル屋上に大砲!?
- エンタメと心配り
- まじめにふざける
北九州市小倉南区の閑静な住宅街に、"大砲"が設置されたビルがある。調べてみると、その建物はデイサービス施設で、ひと味変わったコスチュームを着用した職員たちは、クルー(乗組員)と呼ばれているらしい。ちょっと謎めいた施設を訪ねると、そこには介護の現場が直面する課題に風穴を開けようと奮闘する姿があった。
ビル屋上に大砲!?
施設の名称は「黒船デイサービス3号」。砲身約2メートルの大砲は、黒船をイメージした建物の屋上にある。ビルに到着すると、施設運営会社の代表で「冒険家・黒船満」を名乗る男性が赤いマントをなびかせながら屋上へ案内してくれた。
なぜ屋上に大砲が? その衣装は一体? 施設に黒船と名付けたのはなぜ?――。次々とわき上がる疑問をぶつけてみた。
施設の名前は、ペリー率いる米国艦隊が1853年に黒船4隻で浦賀に来航した史実から付けたという。200年以上続いた日本の鎖国を終わらせた黒船のように、介護業界に変革をもたらしたいという強い決意が込められているらしい。大砲はその象徴だ。
デイサービスなど1000軒以上の施設を見学してきたという黒船さん。画一化された制服をはじめ、個性が封じられた介護の世界に疑問を感じていたそうだ。
人材不足が深刻な介護の現場に、どうすれば若い人が魅力を感じてくれるだろうか――。エンターテインメントの要素を取り入れたら、明るく前向きなイメージを持ってもらえるのでは――。模索を続ける中で、歴史の転換点となった黒船来航が、自分の目指すイメージに重なったという。
エンタメと心配り
施設では、管理者は「船長」、介護担当者は「航海士」、理学療法士は「操舵(そうだ)士」といった具合に呼ばれる。
「福祉版のディズニーを目指している」というだけあって、制服へのこだわりも強い。東京ディズニーランドの衣装を監修している会社に依頼して、2年がかりで完成させたとのことだ。
見た目のインパクトだけではなく、実務面でも細やかな心配りを見せる。お年寄りの移動介助など現場の負担をやわらげるため、膝の部分はクッションも入れて3層構造に。「動きやすい」とクルーにも好評だ。
ビルは1階がデイサービス、2階は老若男女が暮らす定員6人のシェアハウスとなっている。大砲のそばにジェットバスを置いたのは、職員やシェアハウス住民への配慮から。休日には、職員らが家族や友人らと楽しむ姿が見られるそうだ。
まじめにふざける
黒船さんは、ご当地キャラクター「クロフネマン」としての顔も持つ。地域のイベント、小学校や商業施設などで、10年以上前から計650回ほどヒーローショーを開催してきた。メインテーマは児童やお年寄りの虐待防止。思いを同じくする仲間が仕事の垣根を越えて集まり、多い時には20人ほどでパフォーマンスを繰り広げるという。
介護現場をヒントにしたステージは、子どもたちに介護の仕事に興味を持ってほしいとの願いから生まれた。これからさらに重要性を増す介護業界のイメージアップにつながれば、という期待を込めての活動だ。
「超まじめにふざけてやっている」と話す黒船さん。2027年頃の完成を目指して、新たな施設の計画を進めている。16基の大砲が屋上でにらみをきかせる、エンタメ要素たっぷりの"現代の黒船"になるそうだ。