再評価される「博多曲物」 職人が大切にしてきた和の心

 飯びつ、一輪挿し、弁当箱――。1枚の木板をとじ合わせた側面が、美しく柔らかい曲線を描く。福岡県知事指定特産民工芸品の「博多曲物(まげもの)」。昭和初期には20軒以上の工房があったが、金属・プラスチック製品に押され、今は2軒を残すのみに。だが近年は「本物志向」の高まりから、その価値が見直されている。



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シンプルな工程に光る匠の技

 福岡県志免町にある工房「博多曲物 玉樹」の作業場。18代目・柴田玉樹さんが「和の心がこもっているのが曲物の良さ」と力を込めた。

 取材で工房を訪ねたのは、材料の木板を曲げる作業の日。熱湯で煮て柔らかくした杉の板を一つひとつ型に沿って曲げ、「木ばさみ」で丁寧にとじ合わせていく。


柔らかくした板を「巻き木」をあてながら曲げる

 曲物が完成するまでには大まかに、板の大きさを整える「木取り」から「曲げる」「縫う」「底板をはめる」、そして「絵付け」の工程がある。流れはシンプルだが、一つの製品ができるまでに2~3週間を要する。


型に沿って板を曲げ、丁寧に形を整える

 早朝から釜で湯を沸かし、次々に板を投じる。板が冷めないうちに「巻き木」を押しあてて曲げ、素早くとじ合わせる。1週間から10日に1度、多いときには100枚以上の加工をまとめて行う大がかりな作業だ。


縫い合わせに使うのは桜の木の皮

 10日ほど乾燥させ、とじ合わせた部分を桜の木の皮で縫い合わせる。底板をはめ、磨き、防水加工を施す。絵付けを行う製品もある。「伝統工芸というと構えてしまいますが、日常生活に根付いた民芸品でもあります。どんどん使ってほしい」と話す。


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「半人前以下」からスタート

 博多曲物は筥崎宮(福岡市東区)との関わりが深い。「筥」は円形の容器を指す言葉で、祭神・応神天皇のへその緒を収めた箱も曲物だったとされる。江戸時代の文献には、筥崎宮周辺に曲物職人が多く住んでいたことが記され、代々、祭具や日用品を手がけてきた。


昭和初期まで多くの工房があった福岡市東区の馬出地区

 18代目・柴田玉樹さんの生家は、その技を400年以上にわたり受け継いできた。自身も曲物に囲まれて育ち、「夕飯の後は食卓で絵付けを手伝いました。テレビを見てくつろぐ、そんな普通の生活に憧れたものです」と振り返る。

 結婚して家を出たあとも家業を手伝い、腰の痛みを訴える父に代わり、曲げる作業も行った。その父が1995年、肺がんのため急逝した。


父親(右)と工房で(提供:博多曲物玉樹)

 3人きょうだいで、男は弟1人。ただ、弟は家業を継ぐことに難色を示していた。「伝統を途絶えさせるわけにはいかない。ずっと手伝ってきた自分ならば」。葬儀後、家族の話し合いの席で自ら手を挙げた。

 福岡市内の工房は、知人の保証人になった父の借金により閉鎖された直後。女性の職人に注がれる周囲の目は冷ややかで、「本当に作れるの?」と聞かれることが何度もあったという。「男性ばかりの職人の世界で、自分は半人前以下でした」と言う。


黙々と腕を磨いた2000年頃の様子(提供:博多曲物玉樹)

 間もなく、福岡市に隣接する志免町で工房を再開した。板を曲げ、絵付けをし、黙々と作業を続ける姿に周囲の視線も変わっていった。

 確かな仕事が評価されるようになったのは、"独立"から10年が経過した頃だった。2017年には、福岡県優秀技能者として表彰を受けた。


「楽な道のりではなかった」と振り返る柴田さん


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和の心が詰まった製品

 昭和初期まで身近な日用品だった曲物だが、大量生産が可能で安価なプラスチック製品、金属製品に取って代わられた。曲物の出番は、神社の手水舎で使うひしゃく、茶道具などの分野に狭められていった。


手水舎に置かれたひしゃくにも曲物が使われることが多い

 しかし近年は追い風が吹いているという。品質を重視する「本物志向」、SNSでの「映え」にこだわる若者層、エコに対する関心から、博多曲物にも注目が集まっている。価格は柴田さんの店の弁当箱の場合で7000~9000円程度するものの、百貨店が取り扱いを始め、日用品の注文も増えてきた。

 「温かみと柔らかさ、和の心が詰まった曲物を、多くの人の日常で使ってほしい」


贈り物としても博多曲物の弁当箱は人気が高いという

 最近は技術継承にも力を入れる。2人の息子を指導し、「今、私が作っているものは、次の世代には古いものになる。基本的な手法はそのままに、新しい発想で時代に合うものを作ってほしい。それが伝統を継承していくことになるから」と期待する。


息子たちに技を伝える柴田さん(右)(提供:博多曲物玉樹)



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