福岡の人たちに愛される「ひらお」の塩辛 ファンの胃袋をつかむ信念とは?

創業時から無料で提供している塩辛(提供:天麩羅処ひらお)

 福岡市民に親しまれる天ぷら専門店「天麩羅処ひらお」は、店で無料で提供される「いかの塩辛」にも根強い人気があります。取材してみると、このサービスには創業から40年以上にわたって守られている信念がありました。


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福岡の市民に愛される塩辛

 福岡都市圏に7店舗を置く「天麩羅処ひらお」は、揚げたてを一品ずつ提供するスタイルで営業し、カウンター越しに調理場の動きを見ることができます。これは「調理する様子を目にして、お客さんに安心してもらいたい」という考えからだそうです。


カウンターの向こうで調理する様子が見られる

 天ぷらだけでなく、無料サービスの塩辛にも多くのファンがいます。主な材料はイカと柚子で、ワタ(内臓)は混ぜていません。柚子の風味が香り、くせがなく食べやすいと評判の一品です。

 これまでは卓上で食べ放題でしたが、新型コロナウイルスの感染が広がってからは、店員さんが小皿にとって出す形をとっています。


天ぷらを提供される際、塩辛のお替わりを注文する人も

 青柳正典社長によると、2018年に材料のスルメイカが不漁となりサービスを一時休止したときは、来店者が2割ほど減ったといいます。それほど、ひらおの塩辛は顧客に愛されているのです。

 2020年冬からはインターネットでの販売も始めました。塩辛の品質を保つのに最適な容器が見つかったことから通販に踏み切り、SNSなどでも話題になって売れ行きは好調とのことです。


インターネットでの販売も始めた(提供:天麩羅処ひらお)


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創業初期から変わらぬ製法

 なぜ塩辛を提供するようになったのか。青柳社長に経緯とこだわりを聞きました。

 ひらおの前身は、生鮮食品を扱う商店が1978年に開いた食堂「ドライブインひらお」です。福岡空港にほど近い福岡市博多区東平尾に店を構えたことから、店名が「ひらお」になりました。


塩辛へのこだわりを語る青柳社長

 1979年に天ぷら専門店に改装し、そのときには塩辛のサービスも始めていました。青柳社長は「ワタと合わせたものを出していましたが、においも強く評判はいまひとつでした」と振り返ります。仕入れや調理を担当していた青柳社長が塩辛の改良を託され、ワタを抜いて柚子の風味を生かす現在のレシピに変えたそうです。


店の前に掲げられた塩辛ののぼり

 さっぱりした風味とやわらかな食感の塩辛はたちまち評判を呼び、特に出張で福岡を訪れたサラリーマンたちの支持を集めました。当時は塩辛を買える店が少なかったこともあり、「土産として売ってくれ」という客もいたといいます。


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無料だからこそ手を抜かない

 ひらおで今も大切に守られている先代の教えが、「サービス品こそ手を抜かず、良いものを出せ」というものです。多くのファンの胃袋をつかむ塩辛の原点はここにあります。

 先代は「ポケットの小銭でおいしいものを食べられる食堂を」との思いからドライブインを開きました。青柳社長によると「無料のものはまずくて当たり前という考えをひっくり返したかった」といいます。サービス品の塩辛も素材にこだわり、「考えられる範囲で最高のもの」を提供してきたそうです。

 スルメイカは専属で契約した漁師から新鮮なものを仕入れ、柚子は試食を重ねながら産地を歩き回って選んだものを使っているとのことです。


多くの人に愛されている塩辛

 塩辛のレシピは社外秘。社内で作り方を知るのは、社長のほかに1人だけなのだそうです。柚子の産地も誰にも知られぬよう、社長がトラックを運転して農家の元へ仕入れに向かうという徹底ぶりです。青柳社長は「シンプルだからこそ、作り手が変わると味が変わってしまう。お客さまには変わらない味を提供したい」と言います。

 客の反応が気になって、2年ほど前までは自らも厨房に立っていたという青柳社長。「これまで当たり前にやってきたことを、これからも続けていくだけです。それが、お客さまの『おいしい』につながっていきますから」


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