茶碗蒸し!?のような伝統料理 筑前・朝倉地域の「蒸し雑煮」
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記事 INDEX
- 蒸す雑煮って一体?
- 百聞は…いざ!実食
- 未来につなぐ食文化
正月料理の定番・雑煮は、地域によって具材や味付けが異なり、それぞれに特色があります。福岡県の筑前・朝倉地域に伝わる一品は「蒸し雑煮」。見た目は茶わん蒸しのようですが、食べ進めると器の底から餅が姿を現します。全国的にも珍しいという料理を訪ねて、朝倉地域に向かいました。
蒸す雑煮って一体?
辞書で「雑煮」を調べると、「もちに具をあしらった汁物」などと説明されています。では「蒸し雑煮って一体なに?」。この疑問に、あさくら観光協会事務局長の里川径一さん(48)が答えてくれました。
里川さんによると、朝倉市、筑前町、東峰村の一部地域で伝承されてきた蒸すタイプの雑煮。江戸時代中期に中国から長崎に伝わった茶わん蒸し料理が、長崎警備の任にあたっていた福岡藩にも広まりました。江戸時代後期には福岡藩の分家・秋月藩にも伝わり、朝倉地域でも食されるようになりました。
当時貴重な卵を使う茶わん蒸しが、正月料理のごちそうだった雑煮と"合体"し、さらに豪華な「蒸し雑煮」が誕生したと考えられているそうです。
餅やエビなどの具材と一緒に、だしと溶き卵を入れて蒸す雑煮――。2016年、ひっそりと受け継がれてきた郷土料理が、クローズアップされることに。地域の特色ある料理をPRするプロジェクトに、観光協会などで取り組むことになったのです。
プロジェクトでは、朝倉市、筑前町、東峰村の飲食店や旅館などが17年から一斉にのぼりを掲げ、「筑前朝倉蒸し雑煮」として提供を始めました。今も10軒以上で味わえ、通年でメニューに載せている店舗もあります。
百聞は…いざ!実食
百聞は"一食"にしかず――。1年を通して蒸し雑煮を提供している筑前町の「和食家 なかにし」を訪ね、実食してみました。
社長の中西厚二さん(59)は「雑煮と言えば蒸すのが当たり前で、珍しいとは思っていませんでした」と話します。プロジェクトをきっかけに、店のメニューに加えたそうです。
早速、握りずし3貫がついた「蒸し雑煮セット」(税込み1100円)を注文。中西さんが運んできてくれた直径15センチほどの器の中身は、聞いていた通り、茶わん蒸しのような見た目です。
器に箸を入れると、蒸されてプルプルになった溶き卵の中から、鶏肉やブリ、かつお菜、ちくわ、シイタケなどが出てきて、宝探しのような楽しさがあります。「昆布とかつお節でとっただしが決め手で、具材にも下味を付けています」と中西さん。スプーンで溶き卵とだしをすくって口に運ぶと、ふんわり優しい味が広がりました。
器中央の底のあたりで、それまでとはちょっと違う感触が……。この料理のメインである餅の登場です。伸びる餅を味わいながら、「これが筑前朝倉蒸し雑煮か」と実感します。食べ終わると、おなかいっぱいで、体はぽかぽかでした。
中西さんは「真夏の暑い日でも注文が入ります。作るのは大変ですが、多くの人が喜んで食べてくれるので、これからも提供し続けたい」と話します。
未来につなぐ食文化
観光協会はプロジェクトの一環で、家庭でも蒸し雑煮を簡単に作れるレトルト商品(税込み702円)を開発。だしと餅がセットになっており、溶き卵と好きな具材を入れて蒸せば完成します。観光協会やプロジェクトの公式サイトなどで購入できます。
「お雑煮研究家」として全国の雑煮を調査している粕谷浩子さんは、著書の中で、変わり種雑煮の第1位に蒸し雑煮を挙げています。「蒸す雑煮は全国でもほかにはない。歴史もあって興味深いです」と粕谷さんは語ります。
筑前朝倉蒸し雑煮は2024年3月、地域で受け継がれ、継承すべき食文化として、文化庁の「100年フード」に認定されました。観光協会の里川さんは「プロジェクトに取り組んだことで、蒸し雑煮が注目されるようになりました。もっと広めて、朝倉を訪れた際は『食べて帰らんとね』と思ってもらえるようにしたい」と話しています。