市民の胃袋をつかんで離さない 大牟田グルメ「イカタル弁当」

父から教わった「イカタル弁当」の味を守る石井良子さん(左)と、母の征子さん
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記事 INDEX
- 世代を超えて愛される味
- 父が生んだ名物メニュー
- おいしかった!を励みに
福岡県大牟田市の名物グルメ「イカタル弁当」。刻んだイカフライとタルタルをのせた“のり弁”で、地元の住民なら子どもから大人まで誰もが知るソウルフードです。元々は、惜しまれつつ閉店した地元スーパーの人気メニューで、現在はレシピを受け継いだ弁当店「カントリーキッチン」で買い求めることができます。
世代を超えて愛される味
「このおいしさをたくさんの人に味わってほしい」。同市有明町でカントリーキッチンを営む石井良子さん(49)は話します。
石井さんが作るソースは、卵をたっぷり使い、少し酸味のある優しい味が特徴。イカフライは、うま味が最もはっきりするゲソの部分を選んで使います。のりも、有明産1枚をぜいたくに敷き、竹輪や昆布のつくだ煮などを盛りつけます。
イカタル弁当は税込み680円。イカとタルタルは好みで増量もできます。口に運ぶと、見た目の印象とは異なり、あっさりした味わいです。老若男女から愛され、店には親子連れや作業着姿の男性、学生や高齢者など幅広い層の客が絶えず訪れます。
「自分が食べたいと思うおいしいものを作れば、お客さんは必ず来てくれる……。父の教えです」。石井さんはしみじみ語ります。
父が生んだ名物メニュー
イカタル弁当が誕生したのは40年以上前。考案したのは、同市の繁華街・大正町でスーパー「ショッピングいしい」を経営していた石井さんの父・繁徳さんでした。
スーパーでは食料品や日用品を扱っていましたが、繁徳さんは「これからは共働きの家庭が増え、手作りの味が求められるはず」と考え、弁当店を併設することに。ハンバーグやトンカツなど様々な種類の弁当を自ら作りました。妻の征子さん(80)は「『若いもんには肉を食べさせないと』と、よく言ってましたね」と振り返ります。
のり弁は当初、魚フライなどを添える一般的なものを販売していました。「よそと違う味にできないか」と、繁徳さんはタルタルソースを加えるなど研究を始めます。
繁徳さんはある日、晩酌のつまみに用意したイカフライがタルタルソースに合うことに気づきます。この”発見“がイカタル弁当のデビューにつながりました。征子さんは「気づいた時には店にイカタルが並んでいたの」と笑います。
スーパーは年中無休で、朝9時30分から深夜2時30分までの営業。大手コンビニの進出に対抗し、24時間営業を続けた時期もあったそうです。日中は近隣の住民や部活を終えた高校生などが訪れ、夜は飲食店の従業員や飲み会帰りの会社員らが“シメの一品”を求めてやって来ました。
ファンの多くは「飲んだ後はやっぱりイカタル」と口々に言います。「子どもの頃、父親がおみやげに買って帰ってくれた思い出の味」と話す人もいます。
おいしかった!を励みに
「子どもの頃から、お弁当屋さんを開くのが夢でした」。スーパーの調理場をずっと手伝っていた石井さんは2019年8月に独立し、念願の弁当店を始めます。同年秋、体の調子が悪かった繁徳さんが亡くなり、スーパーも閉店しました。
カントリーキッチンではイカタル弁当のほかに、新鮮なトマトの風味を楽しめるハンバーグやトンカツをのせた「元気弁当」(680円)、「チキン南蛮弁当」(750円)など繁徳さんが考案したメニューを提供しています。
「父の味を守り続けたい」と石井さんは話します。タルタルの上に6本の竹輪が並ぶ「チクロク」(490円)など、知る人ぞ知る裏メニューも常連客に愛されています。
「修業のときから『お客さんの期待を裏切るようなことをしてはいけない。味は確実に伝わるよ』と父に教えられてきました」と石井さん。「おいしかった!」という喜びの声を励みに、下ごしらえから気を抜くことなく、今日も調理場に立ちます。
カントリーキッチン
所在地 福岡県大牟田市有明町1-3-5
営業時間 10:00~19:00(オーダーストップ18:45)
定休日 日曜・祝日
電話 0944-57-3177