有明海沿岸の酒文化を広めたい 大牟田発「ネオ角打ち」拡大中
記事 INDEX
- オリジナルで勝負!
- 豪雨被害からの挑戦
- 再評価につながれば
福岡県大牟田市の酒店・永野酒店が今夏、角打ちスペースを備えたショップの県内3号店を福岡市博多区にオープンしました。商業施設・博多リバレインモールの1階にあり、立ち飲み利用を中心に好調です。2020年の豪雨被害の後に挑んだ新しい業態で、店の関係者は「地元のいいモノを広く伝えたい」と奮闘しています。
オリジナルで勝負!
新店は8月14日にオープン。人気の中心は「永野酒考(ながのしゅこう)」と銘打って、地元の酒蔵などと協力して生み出したプライベートブランド(PB)商品です。
PB商品は、日本酒「駒吉」(青 特別本醸造/720ミリ・リットル、税込み1386円など)をはじめ、ジン「Ginny(ジニー)」(500ミリ・リットル、4840円)、新店に合わせて登場したワイン「MINATO(ミナト)」(750ミリ・リットル、2750円)など。店頭には、厳選した各地の日本酒や焼酎、ウイスキーなども含め100種類以上が並びます。
角打ちスペースでは駒吉(1杯600~650円)などオリジナルの酒をはじめ、焼酎やカクテル、ノンアルコール類も提供。お得な飲み比べセットもあります。購入した日本酒やワインをその場で味わうこともできます。
オリジナルのあてシリーズ「あてごう」も用意。大牟田産のミカンを使った「上内みかんチーズ用ジャム」や「海茸(うみたけ)の洋風粕(かす)漬け」など、地元で愛されている味がそろいます。
豪雨被害からの挑戦
永野酒店は1960年創業。今回のような角打ちスペースを備えたショップは博多リバレイン店が3か所目で、1号店を出したのは2021年のことです。前年の九州豪雨の影響で、小売り事業の見直しを余儀なくされる中、発案したのがこの新業態でした。
20年7月の豪雨で、大牟田市内2か所で運営していた酒の小売店の一つが床上まで浸水し、営業が続けられない状態に。1店のみでは事業として難しく、残る店も翌21年2月に閉鎖することになりました。コロナ禍による苦境も重なり、「借金が倍増して正直おっかなかった」と、酒店の4代目で運営会社ナガノの社長・永野哲志(てっし)さん(48)は振り返ります。
「祖父の時からやっている酒屋だが、同じことをしていても続かない。地元の強みを生かせるオリジナルの品で、多くの人に楽しんでもらえることをしよう」――。考え抜いて21年に生まれたのが、「駒吉」をはじめとするPBと、商品のこだわりを発信する新たなショップでした。
「駒吉」は、有明海沿岸にある「おいしいけれどそれほど知られていない」という酒蔵とのコラボ商品。品名は、地元の三池港の開発で知られる明治・大正期の偉人、団琢磨の幼名にちなんでいます。現在、それぞれ異なる酒蔵と組んだ5種類を販売しています。
ラベルの色が異なり、青は玉水酒造(みやま市)、赤は柳川酒造(柳川市)、黄は矢野酒造(佐賀県鹿島市)、緑は瑞鷹(ずいよう)(熊本市)、ピンクは山崎本店酒造場(長崎県島原市)が手がけました。
角打ちも楽しめる新店は反響を呼び、福岡市内の業者の誘いを受けて22年、同市中央区白金に2号店を開設。そして3号店の博多リバレイン店へとつながりました。
博多リバレイン店は角打ちの利用が想定より多く、開業後にテーブルを増やしたとのこと。現在は20~30人ほどが角打ちを楽しめるようになりました。永野社長は「女性も入りやすい店で、一人飲みも歓迎です。気軽に立ち寄ってほしい」と話します。
再評価につながれば
被災からのチャレンジは、新たな展開を見せています。
8月発売の新たなPBワイン「MINATO」は、地域に根ざした「駒吉」の商品づくりに共感したフランスのワイン生産者からの提案で誕生しました。ラベルには、その生産者が描いた三池港の絶景「光の航路」のイラストを採用しています。
永野酒店は今後も、店舗網を広げていく構えです。「市外への出店で評判が高まれば、大牟田に人を呼び込んだり、大牟田の人たちに地元のよさを改めて知ってもらう機会にもなる。『逆輸入』のような形で大牟田が再評価される機会につながれば、ありがたい」。永野酒店のチャレンジは続きます。