福岡県柳川市の柳川古文書館で、企画展「有明海と柳川の缶詰史」が開かれている。同市を中心とした有明海沿岸では、明治から昭和時代にかけ、アサリなど豊富な海産物を使った缶詰製造が盛んだった。同展では、缶詰製造業の始まり、隆盛期の様子などをバラエティー豊かな缶詰のラベルや企業の関連史料などで紹介している。
同館によると、柳川(旧山門郡)での缶詰製造の歴史は1881年(明治14年)、旧藩主の立花家から援助を受け、旧藩士らが設立した士族授産会社「興産義社」に始まる。同社はその後、援助を必要としないほどまで成長し、柳川では多くの缶詰製造業者が創業した。
大正時代には不況で多くの業者が経営難に陥ったが、柳川・沖端地区にあった「西海缶詰殖産」(2000年に廃業)がアメリカへのアサリ缶詰輸出に成功。昭和になると、日米関係の悪化で輸出が困難になった。終戦前後にはほとんど製造されなくなったが、戦後数年たって再開され、昭和30年代まで盛んに作られた。
柳川地区には最盛期、15業者ほどがあったが、約10年前に最後の工場が閉鎖し、魚介類の缶詰製造は終わったという。
会場には、興産義社や製缶業組合に関する史料を始め、西海缶詰殖産の元経営者から寄贈された経営史料や工場の図面など約130点を展示。アサリや赤貝、アゲマキ、タイラギ、イイダコなどの缶詰に貼る前の状態で保存されていたラベルも並ぶ。ラベルには中身が見えない缶詰をアピールするため、海産物の絵に加え、潮干狩りの様子などが描かれている。
中川晃一学芸員は「ラベルのデザインや色彩はユニークで、懐かしく感じる人も多いと思う。貴重な史料と写真も展示しており、この機会にふるさとの歴史への関心を深めてほしい」と話している。
来年2月4日まで。月曜と年末年始(12月28日~来年1月4日)が休館。入館無料。会期中は毎日、先着15人にラベルをデザインした缶バッジをプレゼントする。1月20日午後1時半からは柳川市民文化会館で、缶詰の歴史をテーマにした中川学芸員と村上友章・流通科学大准教授による講演会がある。問い合わせは、柳川古文書館(0944-72-1275)へ。