【熊本】阿蘇山退避壕で相次ぐ落書き 国が改装工事急ぐ
国内外から年間約50万人の観光客が訪れる「阿蘇中岳」(熊本県阿蘇市)の火口周辺に整備された退避壕(ごう)で、外国語や日本語の落書きが相次ぎ、管理する環境省の九州地方環境事務所(熊本市)が改装工事を始めた。退避壕は万一の噴火に備えた設備で、担当者は「遠方から足を運んだ人が、落書きを見て不快な思いにならないようにしていきたい」としている。改装は9月上旬にも完了させる予定だ。
外国語や日本語 壁面の至る所に
8月26日午前、壕の建設当時から工事を請け負っている「田上建設」(阿蘇市)の作業員が数人がかりで壕内の壁に向き合っていた。
壁には、訪問日とみられる日付や特定の女性に宛てたメッセージなどが英語や中国語、韓国語で至る所に書かれていた。中には日本語で「火山ふんかしろ」といった内容もあったという。
同社の和田亮副社長(35)は「自分たちが施工した壕に落書きされるのは心が痛い。記念に残そうと名前を書くなどしているようだが、落書きはやめてほしい」と語った。
県警によると、壕への落書きは器物損壊罪や建造物損壊罪に問われる可能性がある。
コロナ禍収束 入場者約6倍に
阿蘇市によると、中岳の入場者数はコロナ禍の収束に伴って急増した。2023年度は前年度比で約6倍の約55万人に上り、24年度は約49万人だった。急増の要因について、担当者は「インバウンド(訪日客)の影響がかなり大きい」とする。
壕は鉄筋コンクリート造(床面積31・19平方メートル)で22年に完成し、通常見学が可能な「Bゾーン」一帯に6基設置されている。壁面は周辺の景観になじむよう、火山の噴出物を原料に特殊な加工を施している。
しかし、足元の小石を拾って書かれたとみられる落書きが、完成後から目立つようになった。昨夏は、職員やボランティアが表面を磨いたが、深く削られているものは完全に消しきれなかった。
「身を守る施設」新素材で強度向上へ
このため、同省は約400万円の予算をかけて表面が削られにくい繊維入りの「樹脂モルタル」で上塗りすることにした。新たな素材にしたことで従来より強度が上がったほか、乾燥に必要な時間も短くなり、工期の短縮も図れるという。工事中は使用可能な壕を確保し、2基ずつに分けて改装を実施している。
一方、環境省の阿蘇くじゅう国立公園管理事務所(阿蘇市)は、壕が身を守るための重要施設との認識が観光客らに浸透しきっていないことも、心ない落書き行為が続く要因とみている。このため、噴火時の避難場所がわかるようなピクトグラム(絵記号)を作成したり、案内する看板を多言語化したりした周知も検討している。
同事務所の岩崎辰也・国立公園管理官(37)は「世界的にも火口を見学できる場は少ない。周知方法の見直しも図り、火山特有の景観を安全に楽しんでほしい」と話している。