【鹿児島】「悪」Tシャツで広がる善意の輪 悪石島を応援
トカラ列島の悪石島(あくせきじま)(鹿児島県十島村)のオリジナルTシャツ「悪(あく)T」が評判だ。背中に「悪」の一字が大きく描かれているのが特徴で、島で続く地震のニュース映像に着用する島民が映り、注目された。島外避難も経験した村へのエールも込め、全国から注文が相次ぐ。漫画家らが作製したTシャツも登場し、支援の輪が広がっている。
「着て応援」全国から注文
十島村教育委員会によると、悪石島の島名は、平家の落人が流れ着き、外部の人が寄りつかないように「悪」の字が付けられたなど、諸説ある。
鹿児島市にある村のアンテナショップ「トカラ結プラザ」では、その「悪」が縦約30センチ、横約25センチの筆書き風にプリントされたTシャツが、ひときわ目を引く。
「悪T」の名称で、1枚税込み2750円。プラザの崎山博典さんは、「7月から急に売れ始めた。在庫もなくなりそうです」と話す。
島民の普段着
悪Tは、島民が普段着で愛用している。もともとは村立悪石島小中学校(現・悪石島学園)の元教頭・野本正樹さんが2012年、体育祭などで教員が着るために作った。デザインは知り合いの書道経験者に「悪の漢字を使ったインパクトあるものを」と依頼した。島内で評判になり、14年頃から島の自治会が製作・販売していた。
これまで購入するのはほぼ島民で、プラザで売れたのも昨年は数枚だけだった。
それが今年は一変した。
地震が頻発した6月下旬以降、悪T姿の島民がテレビなどで繰り返し流れ、X(旧ツイッター)には「悪のロゴがかっこいい」「支援につながるなら購入したい」などの書き込みが続出した。プラザには東京や大阪、京都から「購入して島を応援したい」と電話注文が相次ぎ、7~9月に計38枚売れた。プラザは在庫切れに備え、追加発注した。
野本さんは、「Tシャツが人気になって、島の人が元気になればうれしい」と笑顔を見せた。
漫画の原作者も
人気漫画「孤独のグルメ」原作者、久住(くすみ)昌之さんは、島に伝わる仮面神「ボゼ」を描いたTシャツを作り、販売した。
村によると、久住さんが地震発生前の6月上旬、村の観光PRで来島した際、作製が決まった。プラザでは8月から1枚5225円(税込み)で販売すると、初回入荷分の30枚は1か月で売り切れた。久住さんは取材に、「ボゼがある素晴らしい悪石島のことをもっと知ってほしいとの願いを込めて作った。Tシャツを着てもらうことは応援につながる」と語った。
遠く離れた場所からも支援の手が挙がる。プロ野球グッズなどの製作・販売会社「スペースエイジ」(本社・広島市)は、7月下旬にチャリティーTシャツを1枚2750円(同)で販売した。1枚あたり1000円を自治会に寄付する。
東京支社の宮野翔多さんが、鹿児島出身の肉親がいる同僚が地震に心を痛める様子を見て、「役に立ちたい」と上司に提案した。自治会の公認ももらい、発案から2週間で売り出し、多くの注文があった。島からも感謝の言葉が届いたといい、宮野さんは「島の力になれて良かった」と話した。
悪石島では10月14日にも震度3を観測した。6月からの同島を含むトカラ列島の群発地震で震度1以上は2300回を超え、影響は続いている。十島村の久保源一郎村長はTシャツの支援の輪に、「とてもありがたい。購入を機に島の訪問や、盛り上がりにつながってほしい」と期待している。
フェアでも応援
Tシャツ以外にも、地震で打撃を受けた悪石島などトカラ列島の生産者を応援する取り組みもある。
鹿児島市の百貨店山形屋と十島村は10月1日から、同百貨店で「トカラフェア」を開催。1号館7階の「山形屋食堂」では、列島の食材を使った「トカラ定食」(税込み2200円)が楽しめる。メニューを手がけたレストラン「ルドーム」の鹿島匡人総料理長は「島の食材だけでなく、人の温かさで完成した」とPRする。フェアは31日まで。期間中、村の特産品などの販売や写真展もある。