代替肉、実はレベル上がってます 福岡発ベンチャーが味で勝負するわけ
記事 INDEX
- 食べてみた、もはや肉だった
- 息子のがんをきっかけに
- 環境問題は「団体戦」で
「大豆ミート? うーん、おいしくないんでしょ」。それ、ただの思い込みかもしれません。消費者の健康志向や環境意識の高まりを背景に、食品メーカーや外食チェーンが相次いで参入している代替肉市場。福岡市中央区の環境ベンチャー「上向き」は今年、発芽大豆を使用した大豆ミート「SOYCLE(ソイクル)」を発売。福岡市・天神や博多駅などに展開する弁当店ともコラボし、手軽に大豆ミートが味わえる仕組みづくりにも取り組んでいます。「環境問題より『うまい』で選ばれるために」。上向きの白坂大作代表に聞きました。
食べてみた、もはや肉だった
「ひき肉の代わりにミートソースなどに使っていただいても、違和感なく料理になじみます。大豆ミートだと気づくのは難しいんじゃないですかね。僕は知ってて食べても分からないので、気づける人はすごいですよ」
白坂さんは自信をのぞかせます。そう聞かされても「セールストークだろう」と、まだ疑いがぬぐいきれませんでした。
取材後、福岡市・天神の「博多大丸」に向かい、デパ地下の弁当店「旬彩工房 やまこう」でソイクルを使った「ガパオライス」と「野菜のキーマカレー」(各648円)を購入。大豆ミートだと分かって食べています。しかし、味、食感ともに完全な"ひき肉"。ぼそぼそしたおから風の味や食感を予想していましたが、驚くべき再現性です。
息子のがんをきっかけに環境ビジネスへ
「昨年、1歳だった息子にステージ4の小児がんが見つかりました。入退院を繰り返し、抗がん剤治療と手術をしました。治療がうまくいって息子が回復するなかで、この子の未来のために事業をしたいと思うようになりました。環境問題は子どもたちの未来にとり喫緊の課題です。病気を経験したことで、食べ物にも気をかけるようになりました。環境と健康の両面でアプローチできる大豆ミートはぴったりでした」
息子の病気は回復し、今は元気に生活しているそうです。
ソイクルの商品化で意識したのが「味」。開発中に行った大豆ミートの意識調査では、「以前に食べたけれどおいしくなかった」「パッケージデザインがオーガニックを主張しすぎ」など否定的な意見が多く、なかには「ドッグフードっぽい」という回答もあったそうです。
「つまるところ、食べ物は『おいしい』か『おいしくない』か。どれだけ環境に優しいことをアピールしても、おいしくなければ消費者は継続して購入してくれません」。白坂さんが目指す「うまい」を実現する解決策は福岡県の隣、熊本県にありました。
ソイクルの原材料は食品ベンチャー「DAIZ」(熊本市)が製造する、発芽大豆を使用した大豆ミート。うま味成分のグルタミン酸が豊富な一方、大豆特有の臭い成分が少ないのが特徴で、白坂さんはソイクルの商品化に手応えを感じたそうです。
おいしい、簡単、便利を選択肢に
「普及のためにはおいしさを体験してもらう必要があります。大豆ミートを体験してもらう場所づくりも重要で、博多大丸や博多駅に出店しているお弁当『やまこう』とのコラボもその一つです」。大豆ミートを料理に使いたい人向けにはインスタグラムでレシピを発信。これまでに約100件のレシピを公開しています。
「調理をする側にとっては、簡単で便利に使えるのがうれしいはず。キッチンに常備しておいて、さっと使える利便性。サラダにかけるだけでも十分です」
環境問題は「団体戦」で
国連食糧農業機関(FAO)が2013年に公表した報告書では、世界の温室効果ガスの14.5%が畜産業に由来すると指摘されています。そのうちの6割を牛肉と牛乳の生産が占めています。
環境省などによると、牛肉1キロを生産するためには、餌となるトウモロコシの栽培なども含め約20トンの水が必要とされています。大豆の場合は1キロあたり2.5トンの水で済みます。また、牛が餌を消化する際に出すげっぷには、二酸化炭素の30倍近い温室効果があるとされるメタンが含まれ温暖化の要因の一つとされています。
ソイクルが環境問題を意識するきっかけになれば、と語る白坂さん。「おいしい」を出発点に、ちょっと環境を意識することにつながり、そこから地球に優しい行動へと続いていく理想形を思い描いています。
「上向き」という社名は「今日より明日をよりいい社会にしたい」との思いから。「環境問題を前にすると、自分の非力さを感じます。でも一人じゃない。環境問題は団体戦だと思っていて、チームで解決する課題です。環境問題に取り組む企業同士が組んで互いのサービスを顧客に紹介しあうとか。地球のため、子どもたちのために、手を取り合って挑戦することが大事ですよね」