カフェとスタジオがのんびり同居 秋月の自由空間「haco.」
記事 INDEX
- 「箱」のようなスペース
- 自慢の手作りマフィン
- 季節の移ろいを眺めて
城下町のたたずまいが残り、「筑前の小京都」と呼ばれる福岡県朝倉市の秋月城跡。おしゃれな雑貨店やカフェが点在する武家町で、カフェと写真スタジオが同居する「cafe&photo haco.(ハコ)」が”映える”スポットとして注目されている。
「箱」のようなスペース
秋月は福岡藩の支藩。秋月城跡へと続く杉の馬場通りは、春は桜のトンネル、秋には赤や黄色に染まる紅葉に彩られる。
haco.はこの通り沿いにあり、フォトグラファーの藤井清一郎さん(45)と、カフェを営む妻の弥生さん(45)の2人で2020年にオープンした。
写真スタジオとして利用する物件を求めていた清一郎さん。「せっかくならカフェも併設できないだろうか」と探していたところ、数年間空き家だったという元お団子屋が秋月で見つかった。
物件は、ただ広々とした正方形の部屋。撮影スタジオや女子会の会場など自由に使える「箱」のようなスペースになればと考え、「haco.」と名付けた。
平日は1時間1000円、土日・祝日は1日1万円で自由に使うことができる。
アジサイ、ユーカリ、スターチスなど自作のドライフラワーが天井を埋め、ほのかに甘い香りが漂う店内。カメラマンの立場から、どうすれば絵になる1枚を撮れるか、という視点も織り交ぜて家具や撮影スポットを配置した。
おしゃれで流行を先取りしていると言われる韓国のカフェも参考にしたそうだ。訪れた人からは「かわいい」「どこを撮っても絵になる」といった声が寄せられる。
清一郎さんが担当する写真スタジオでの撮影は、20枚のデータ渡しで1万7600円から。テーブルや椅子を外に出して室内を広々と使ったり、天候が良ければ通りに出てポーズを取ったり。成人式や結婚式の前撮り、七五三などでの撮影が多いそうだ。
「プロに撮ってもらうほどでも…」という人は、カフェを利用すればスタジオ内で自由に撮影もできる。ランチの後などに、親子やカップルで、ちょっとした撮影会が開かれるという。
部屋の中央には広いキッズスペースがある。どの席に座っていても子どもの姿が見えるようにと配置した。弥生さんが子育てをしていた頃、友人とカフェでゆっくりするのが難しかったことがあり、こんな空間があったらな、という思いを形にした。
自慢の手作りマフィン
カフェの看板メニューは弥生さん手作りのマフィンだ。「うちのマフィンはこれ!というものを作りたい」。素材や組み合わせなど、いつも頭の隅でマフィンのことを考えているそうだ。
店を開ける日は未明の2時に起き、6時頃まで仕込みにじっくり時間をかける。健康志向と女性人気に押され、今年から米粉も使うようになった。
マフィンだったら見た目も思い通りにアレンジでき、素材を自由に合わせていろんな風味に挑戦できる。時間が許す限り試行錯誤して、マフィン作りに情熱を注ぐ。
早速いただいてみた。まず手に取ったのは、食用ドライフラワーを上にのせた「おはな」。米粉でできていて甘さは控えめ、もっちりした食感が楽しめる。白玉や粒あんが入った抹茶味のマフィンも開店時からの人気という。
一回りも二回りも小さめに作ったのは、「あれも食べたい、これも食べたい」という女性の声に応えるため。たしかに、お茶と一緒に二つは楽に食べられる。
「感動しました」「これまで食べてきた中で一番おいしかった」。初めて店に来た客が、会計の際に声を掛けてくれることもある。
そんな時は「涙が出るほどうれしい」と弥生さん。「これでいいのかな、大丈夫かな」と常に不安と闘っているだけあって、喜びはひとしおだという。「泣きますよ。お客さんが帰ったあと、涙があふれてきます」
季節の移ろいを眺めて
訪れる人の数が、繁忙期と閑散期で大きく異なると言われる秋月地区。カフェの来店客も夏や冬の閑散期にはピークの6分の1ほどに減るそうだ。
忙しい時期は母親や夫の手も借りて料理を準備する。以前はランチの飛び込み客も迎えていたが、今は前日13時までの完全予約制で、ハンバーグランチ1種のみを提供するスタイルにしている。
店の窓に目をやると、新緑から青葉に変わるソメイヨシノの並木道が見える。昔のまま専業主婦として生活していたら、「こうしてダイレクトに季節の移り変わりを感じることもなかった」と話す。
観光客が少ない今の時期、弥生さんは手が空くと、外のテラス席に座り、移りゆく季節を眺めながら、お茶をのんびり楽しむそうだ。
「店を切り盛りする私自身がゆっくり過ごしている姿を見れば、お客さんも『あぁ私たちも、ここでのんびりしていいんだ』と思ってくれるのでは。閑散期にもう少しお客さんが来てくれたらと思うけれど、あくせくしない今も悪くないかな」