絶やすな!絶品グルメ 柳川市民が愛してやまない「絶メシ」のリストを作ってPR
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記事 INDEX
- 昔懐かしい味を再現
- 店の魅力をリストで発信
- 地域の価値に気づく味
地元の人に愛されながらも、後継者不足などでやむなく営業を終える飲食店が相次いでいる。福岡県柳川市には、絶えてほしくない絶品グルメがある店を「絶メシ」に指定して支援するユニークな取り組みがある。
昔懐かしい味を再現
1954年に創業した柳川市の老舗料亭「ランヴィエール勝島」は今年4月、「絶メシ」を紹介するレッドリストならぬ「絶メシリスト」に追加された。指定の理由は、人気メニュー「しょうが焼き定食」(730円)だ。
豚肉と玉ネギを甘辛いたれに絡めた庶民的な味で、料亭にはやや不似合いにも思える。実は、かつて市内で営業していた中華料理店「中華大門」の看板メニューで、同店は10年ほど前に店主が体調を崩して閉店した。
ランヴィエール勝島の荻島博社長(48)は子どもの頃からこのしょうが焼きが大好きだった。「もう一度食べたい」との思いが募り、9年前に偶然出会った店主の弟で料理人の内山田善五さん(73)に復活を頼み込んだ。
内山田さんは約1か月かけて納得できる味を再現。料亭のランチメニューに加えると、懐かしむ客が足を運ぶように。毎週通っているという市内の美容師、末吉美穂子さん(64)は「中華大門の頃と変わらない味。一度食べると癖になります」と話す。
店の魅力をリストで発信
絶メシは2018年、柳川市や西鉄などが連携して行う観光推進事業の一環としてスタートした。指定の条件は、①地元で愛されている②家族や少人数で経営③30年以上続いている④この店でしか味わえないものがある――など。指定した店は「絶メシリスト」のサイトで公開し、ポスターも作ってPRしている。
現在、約200年続くレストラン、中高生に愛されるお好み焼き店など計16店ある。市観光課の担当者は「人情味のある店ばかり。多くの人に足を運び、地域の魅力を体感してもらいたい」と期待する。
指定店の一つで1966年創業の食堂「幸楽」は具が山盛りのちゃんぽんが一番人気で、カツ丼や焼きめしなどどれもボリュームたっぷりだ。
2代目店主の古賀正孝さん(57)によると、店は有明海に近いため昔から漁業や干拓地での農業に従事する客が多く、客の求めに応じて量を増やし味も濃くした。「絶メシに選ばれてから市外のお客さんも増え、励まされます」と喜ぶ。
地域の価値に気づく味
絶メシは元々、群馬県高崎市で2017年に始まった取り組みだ。廃業の危機にある飲食店のリストを公開したところ県外からの客が増えて話題に。店を紹介する本が出版され、テレビドラマ化もされた。柳川市のほか、石川県や広島県にも広がっている。
高崎市で企画を手掛けた博報堂ケトルのプロデューサー、日野昌暢さん(46)は「長く愛される店は、地域の人の記憶や食文化が反映された場所。外から注目されるだけでなく、『うちの街には何もない』と言っていた地元の人たちが地域の価値に気付くことも大切な変化」と指摘する。
学食や老舗の名物をレトルトに
福岡市の辛子明太子メーカー「ふくや」は、地元で惜しまれながらなくなった料理を、レトルト加工品として復活させ、インターネットなどで販売している。
明太子やツナ、しそ昆布を使った「ジロー風スパゲティ」のパスタソース(2食入り972円)は、九州大の学食で1980年代から2015年まで提供されていたメニューを再現した。学生に人気だったが、調理に時間がかかるなどの理由で定番メニューから消えた。それを知った同社が、九大生協から調理法を学び、19年に発売。卒業生から好評という。
21年5月に閉店した同市の老舗ロシア料理店「ツンドラ」の名物ボルシチも、同年11月からレトルトパック(1人前648円)で販売している。ふくやマーケティング課の担当者は「多くの人に長年愛された味を、形は違えど受け継いでいくことで、地域に貢献したい」と話す。
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