新年の玄関に郷土色 地域でさまざま「しめ飾り」
この記事のオススメタイトル
記事 INDEX
- 福岡は「八」の字が主流
- 北九州・筑豊地区は「鶴」
- 全国には「馬」や「蛇」も
師走に入り、そろそろ正月の準備を始める時期。新しい年に玄関などを飾るしめ飾りは、地域ごとに形が異なっている。それぞれに由来や人々が込めた思いがあるようだ。
福岡は「八」の字が主流
11月中旬、福岡県うきは市の田園地帯にある国武良一さん(74)の作業所では、しめ飾りの製作が急ピッチで進んでいた。農家から提供されたわらを使い、毎年1万2000個以上を作っているという。
国武さんは福岡地区と筑後地区に出荷しており、両地区の形は大きく異なる。福岡地区は「博多しめ」と呼ばれるタイプが主流で、わらが「八」の字のような形に整えられ、後ろに竹が付いているのが特徴。「博多は商人の町。末広がりの形は縁起が良く、好まれたのでは」と国武さんは説明する。
一方、筑後地区には、横に渡した縄に三つの房を垂らしたタイプを中心に出荷しており、特にうきは市周辺が多いそうだ。
北九州・筑豊地区は「鶴」
北九州地区と筑豊地区は鳥が羽を広げたような丸い形で、「鶴」と呼ばれている。例年約2000個を出荷する宮若市の「グリーンハート安田花卉(かき)」によると、両地区では、色紙の飾りなどが微妙に異なるものの、基本となる形はほぼ同じ。作り手歴50年以上という同社代表の安田克徳さん(65)は「県内のしめ飾りでは、『鶴』が一番派手なのでは」とほほ笑む。
両地区のしめ飾りが鶴の形をしている理由について、民具や祭礼行事に詳しい別府大の段上達雄特任教授(日本民俗学)は「はっきり理由はわからない」としながらも「昔の人々が家族らの長寿を祈り、長生きするとされる鶴をモチーフにしたのでは。華やかなことが好きな地域性も関係しているかもしれません」と推測する。
段上教授によると、正月は、1年間を幸せに過ごせるようにしてくれる「年神様」が自分の家に来る特別な日などと考えられてきた。しめ飾りは、神様を迎えるのにふさわしい清らかな場所であることを示すものという。「生活する人々の意識や願いによって形が変化していき、地域ごとに異なる姿になったのでしょう」と話す。
全国には「馬」や「蛇」も
全国には、ほかにもユニークな形のしめ飾りがある。
わら工芸研究家の瀧本広子さん(61)(東京)によると、三重県伊賀市では「馬」をかたどっており、馬が神の使いとされるためと考えられている。琵琶湖がある滋賀県は「蛇」の形で、瀧本さんは「蛇は水に関係が深い竜に例えられます」と説明する。
兵庫県では「めがね」形のしめ飾りが用いられており、「先を見通す」という意味が込められているようだ。めがね形は京都府や岡山県の一部地域でも見られ、結婚などによって広まったとも考えられている。
瀧本さんは「珍しいしめ飾りを見かけたら、由来や背景、込められた思いを想像するのも楽しいですよ」と勧める。
気になる情報やテーマをメールでお寄せください。