福岡で沸々とカツベン熱! 博多活弁パラダイスとは? ~前編・初めて生で観た~

公演中の弁士・坂本頼光さん(提供:博多活弁パラダイス実行委員会)

記事 INDEX

  • そもそも「活弁」ってなに?
  • 弁士・坂本頼光が場をつかむ
  • マスクを飛び越え笑いが届く

 かつて映画は「活動写真」と呼ばれ、大正から昭和20年代まで音の出ない「無声映画」の全盛期でした。スクリーン横に活動写真弁士が立ち、セリフや情景説明を語って盛り上げる。そんな「活弁」は過去の芸かと思いきや、今なお弁士たちは活躍し、近年じわじわとファンが増えているそう。福岡で観られる貴重な機会と聞き、「第3回 博多活弁パラダイス」に潜入しました。

そもそも「活弁」ってなに?

 無声映画を観たことがありますか? 学生時代に数回観た記者は「動きがカクカクしてコミカルで、ストーリーがよくわからないモノクロ映画」という淡い記憶が残るばかり。「無声映画にセリフや情景の語りを付けるのが活動写真弁士、その芸が"活弁"」と聞いてもイメージできませんでした。

 活弁とは、今私たちが観ても面白いものなのでしょうか? 福岡に活弁文化を広げる市民団体「博多活弁パラダイス実行委員会」の代表・上村里花さんに率直な疑問をぶつけると、「もちろん! 活弁は歴史の遺物でも昔懐かしい芸能でもない、現代の"ライブ芸"ですよ」という熱弁が返ってきました。


博多活弁パラダイス実行委員会を主宰する上村さん

 「弁士は自分の解釈で台本を書いて、人物の口調や作品解説を工夫し、アドリブも入れながらストーリーを進めます。今ここにいる弁士と観客が一緒に場を創る、生(ライブ)のパフォーマンスです」と上村さんは続けます。

 全盛期には総理大臣より稼ぐスターも現れましたが、トーキー(音声が入った映画)の時代が到来して人気は衰退。とはいえ、根強いファンに支えられて"絶滅"することなく、今は全国で十数名の弁士が活動しています。「2000年代から若手のデビューが相次ぎ、現在は個性豊かな弁士が切磋琢磨する新たな黄金期を迎えていると言えるかもしれませんね」


活弁は日本ならではの文化として発展した。弁士が海外に紹介された記事(提供:片岡一郎さん)

 新聞記者である上村さんが初めて活弁を観たのは2010年、島根で取材した坂本頼光(らいこう)弁士の公演でした。以来、「地方でも活弁の公演ができれば。観たことのない人たちと楽しみたい!」という思いを持ち続けていたそう。福岡への転勤を機に2020年12月、「第1回 博多活弁パラダイス 坂本頼光独演会」を開催。その後、3か月から半年に1度のペースで公演を続けています。


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弁士・坂本頼光が登場! 場をつかむ


大河ドラマやアニメなどで活躍し、落語会にも客演するエンタメ派弁士・坂本頼光さん(本人提供)


 今年9月26日に福岡市美術館のミュージアムホールで開かれた「第3回 博多活弁パラダイス 坂本頼光再び!+居島(おりしま)一平のシネ漫談」のチケットは予約完売。「初めて観る人、リピーター、弁士やゲストのファン、演芸や無声映画の愛好家などいろいろなお客さんが来てくれました」と上村さんは笑顔です。


キャンセル待ちが出るほどの人気

会場で距離を取りつつ席を設けた


 往年のフロックコート姿で現れた坂本弁士。前説(上映前の解説)で活弁の歴史をひも解き、「活動弁士と名乗っても、弁護士?活動家?と聞き返される」と笑いを誘います。しかし一本目の作品『喧嘩(けんか)安兵衛』が上映されると、顔つきと声がガラリと変わりました。


前説中の坂本弁士。ホイッスルを合図に開演する

 田村正和の父、バンツマこと阪東妻三郎が喧嘩に飛び出す、7分のチャンバラ映画。役者や時代背景を解説しながら、主人公や周りの声、走る緊迫感、水を飲む音などを次々と表現していく。弁士は一人で何役を務めるのか、声の七変化と濃密な七五調の語りに引き込まれます。目は映画に、耳は弁士に釘付け。

 「このフィルム、実はヤフーオークションで落札しまして」と裏話も。埋もれていた貴重な無声映画を観られることも活弁の楽しみの一つです。

 日本アニメの原点といわれる瀬尾光世の作品『一寸法師ちび助物語』では、和製ディズニーのような動きに船をこぐ音やカエルの声を軽妙に付けます。「その棒どっから持ってきたの?」という突っこみに噴き出す観客も。


1935年に製作された『一寸法師ちび助物語』のワンシーン

 マキノ省三の遺作『雷電』は、「勝ち続けると世間に憎まれる」という母の遺言に悩む力士・雷電の人情喜劇。臨終の母のもとに駆けつけて膝から崩れ落ちる場面で「ガクガクン」という効果音を付ける間合いは、まるで漫画。水木しげるファンで漫画家を志す少年だったという坂本弁士の人柄が表れます。

 たとえるなら、「活弁ジェットコースター」に乗った気分。弁士がスクリーンごと場をつかみ、語りに引っ張り込み、観客は息つくひまもありません。

 この後、坂本弁士の畏友、居島一平さんがゲスト出演。映画に造詣が深く、人並外れた記憶力をいかした話芸に熱狂的ファンが多い漫談家です。今回の「シネ漫談」で語る映画は『ゴジラvsコング』。味わいどころが弾丸のごとく語られて会場は爆笑に沸き、第一部が終了しました。

「腹抱えて笑ったん、久しぶり」

 幕間、物販コーナーで「ああ面白かった!こんな腹抱えて笑ったん、久しぶり」と、ご婦人がスタッフに声をかけて盛り上がっています。「博多活パラは2回目やけど、沼やね。こんな未知の文化があるなんて」と話す人も。「何から語ればいいかわからんけど、活弁すごい!」という興奮が会場から漏れ出しています。


坂本弁士の自作アニメ『サザザさん』DVDも販売。ゲストの居島さんがポップを書いた

 第二部、坂本弁士が再登場。コメディー『キートンの探偵学入門』が始まりました。シネ漫談で観客の笑いのタガが外れたようで、世界三大喜劇王の一人、キートンの動きに「あー!」「ブハハ!」。弁士もノッてきたのか、1920年代の映画に新型コロナの話をアドリブで入れる場面もあり、時代を自在に行き来する面白さを感じます。


坂本弁士がシーンの解説として語るバスター・キートンの撮影秘話も面白い

 みんなで一つになって声を上げて笑う、こんな自由さを味わったのは久しぶりと気づきました。


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マスクを飛び越え笑いが届く

 終演後、坂本弁士を訪ねて楽屋へ。「昨年も今年も、福岡のお客さんはすっと僕の語りを受け入れてくれる。初めて活弁を観るお客さんも多いのにね」と手応えを語ります。


演者直筆の「ネタ帳」(演目紹介)は「宝」

 「映画に集中したいと、アドリブを嫌うお客さんもいます。コロナの話なんて現実に引き戻されるでしょ?でも、今日のお客さんはいける!と思って」。こうした観客との"押したり引いたり"は、映画と弁士と客席が一体になるライブ芸ならでは。

 「マスクを飛び越えて、お客さんの笑う様子がこっちに届くんですよ。飛沫(ひまつ)は飛ばないけど、笑いは飛ぶ。あ、楽しんでくれてるって。大の大人を声上げて笑わせられる、最高にうれしいですよね」と坂本弁士。


(左から)公演を終えた坂本弁士、上村さん、ゲストの居島さん

 12月16日(木)に開く第4回公演には、坂本弁士のライバルと称される片岡一郎弁士が九州初登場。師走らしく忠臣蔵をメインにした作品と名匠・溝口健二作品が上映されます。時代劇研究家・春日太一さんによるゲストトーク「忠臣蔵談義」も映画への理解が深まる聞きどころ。いざ、活弁の熱気を肌で感じてみませんか。

後編「主宰者に聞いた」はこちら


第4回 博多活弁パラダイスのチラシ



イベント名 第4回 博多活弁パラダイス~片岡一郎独演会
弁士:片岡一郎
ゲスト:春日太一(映画史・時代劇研究家) 
開催日時 12月16日(木) 18:00開演(17:30開場)
開催場所 福岡市美術館 ミュージアムホール
(福岡市中央区大濠公園1-6)
料金 一般予約:3500円(当日:4000円)
※予約で満席の場合は当日券なし
予約・問い合わせ 博多活弁パラダイス実行委員会
メール、電話(090−9570−4579=上村)で
公式SNS 博多活弁パラダイス実行委員会

※12月17日(金)、出演者2人によるトークイベント「忠臣蔵の楽しみ方」を開催


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