福岡で沸々とカツベン熱! 博多活弁パラダイスとは? ~後編・主宰者に聞いた~

第4回公演(12月16日)に出演する片岡一郎弁士(本人提供)

記事 INDEX

  • 福岡で誰もやってないことを
  • 終わった瞬間に次へ走り出す
  • お客さんを育てて、会も育つ

 映画はかつて「活動写真」と呼ばれ、音のない映像に活動写真弁士がセリフや情景説明を付けて臨場感を演出していました。「活弁」は大正から昭和20年代を中心に人気を博しましたが、弁士は令和の今も活躍しています。現代のエンタメとして福岡で盛り上げようと、2020年に市民団体「博多活弁パラダイス実行委員会」を立ち上げた上村里花さんに思いを聞きました。

前編「初めて生で観た」はこちら


上村里花さん

2019年春、転勤を機に福岡市へ。2020年に「博多活弁パラダイス実行委員会」を立ち上げ、活弁を中心に語り芸の公演を開いている。毎日新聞社 学芸部記者。

福岡で誰もやってないことを


第1回から第4回の公演チラシ。 「博多活パラ」の通称やロゴも定着しつつある

――なぜ福岡で活弁イベントを始めたのですか。

 活弁イベントは東京や関西が中心で、福岡では観る場がほぼなくて。こんなに新しくて面白いライブ芸なのに、知らないのはもったいない! とはいえ、私もまだ勉強中なので、「みんなで活弁の世界を探検しようよ」という気持ちで始めました。

――立ち上げるなら今!という追い風が吹いた?

 2019年に公開された周防正行監督の映画『カツベン!』は活動弁士の世界がわかりやすく描かれていて、「活弁」という言葉が世間に少しは認知されるようになりました。映画では、「推し」弁士の坂本頼光(らいこう)さんと片岡一郎さんが活弁指導を担当し、「坂本さんと活弁をメジャーにするなら今だ!」と。

 半年後に第1回公演「坂本頼光独演会」を開きました。2020年に片岡さんが『活動写真弁史』(共和国)を出版して業界に勢いを感じ、「新型コロナ禍で語り芸を絶やしちゃいけない。ライブ(生の舞台)は生きるために必要なもの!」という思いも後押しになりました。


映画『カツベン!』の DVD(提供:東映ビデオ株式会社)各配信サービスでも視聴できる


――記者としてペンで伝えることもできますよね。

 活弁についての記事は書きますが、生の語り芸の面白さは文字だけでは伝わらない。それに「今、活弁がアツい」と書きっぱなしで、福岡では観られない状況を変えようとしないのは無責任でしょう? 書いた以上はそこまでやらないと。

――「福岡なら活弁を広められる」という勝算はあったのですか?

 私は「好きが高じて突っ走る人」に見られがちですが、作戦も勝算もあって「博多活パラ」を始めました。福岡には新しいもの好きでノリのいい人が多いので、活弁を広めるならこの街だと。会場や料金の設定、広報もリサーチしながら行っています。

 活弁を知らない人に「1回観ればハマるから!」と声をかけても、なかなか振り向いてもらえません。説明しにくい芸を一から広めるなんて、リスクのある挑戦に見えますよね。でも、他の人がやっていない難しいことだから面白いんです。チャレンジャー魂が燃える!


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終わった瞬間に次へ走り出す

――SNSをすごくマメにやっていますね。

 万策を尽くして広報することは主宰者の務めなので。公演の興奮が冷めやらぬうちに、レポートとお礼を発信することが大切で、観客のツイートをエゴサーチしてはリツイートするのも、活弁の面白さと「博多活パラ」の存在を知ってもらう地道な広報活動です。本当はもっと戦略的にSNSをやりたいけど余裕がなくて。インターネットをしないお客さんには手紙を送りますし、マスへの発信も一対一の交流にも力を入れています。


公演当日にTwitterでレポートとお礼メッセージを発信

―― 弁士やゲストはどうやって決めるのですか。

 私が「聴きたい!」と思う人です。誰を呼んでどんなテーマや演目を選ぶか、これは「主宰者=私」が試されます。「活弁ってこんな面白いんだ」と心動かされる公演にしないと。一度観てつまらなかったら、二度と来てくれませんから。その意味では、お客さんと演者、もっと言えば「活弁文化」に対する責任を負うわけです。


第1回、第3回公演に出演した坂本頼光弁士(本人提供)は 「活弁の世界を教えてくれた恩人」


――上村さんのガソリンになるものは?

 お客さんの感動です。観客と弁士がノッてきて一体になる瞬間、「活弁は生(ライブ)の芸だ!」っていう興奮を共有できます。会場での「ありがとう」という声や、アンケートの感想がご褒美かな。「どうだ、面白いだろ!」っていう達成感は麻薬ですね。公演前は胃が痛くても、終わった瞬間から次の公演に走り出す…… 「バカだなー」と思うけど。


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お客さんを育てて、会も育つ

――「会」の主宰は初めてじゃないのですね。

 2008年から「広島で生の落語を聴く会」を主宰しています。広島にいたのは1年だけで島根や久留米に転勤しても、仕事がテンパっているときも、広島へ通って公演を続けてきました。私にとって財産であるこの経験があるからこそ、「博多活パラ」も立ち上げられました。


三遊亭遊雀さん、三遊亭兼好さんを招いた第1回の落語公演(提供:広島で生の落語を聴く会)

――仕事との二足のわらじ、キツくないですか?

 チラシを置いてくれる場所へのあいさつ回り、演者や会場との打ち合わせなど、運営業務は数えきれませんがワンオペでやっています。本業の山場と重なると毎日が綱渡り。ありがたいことに、チラシのデザインや公演当日の受付などを手助けしてくれる人たちがいます。公演を成功させる鍵は信頼できるスタッフを集めることなので、自ずと「巻き込み力」が身につきました。今は絶賛スタッフ募集中です!


活弁の第3回公演は話芸好きの仲間が手伝ってくれた。映写と照明は九州大学落語研究会の部員が担当(提供:博多活弁パラダイス実行委員会)

――あっ、電話がかかってきましたね。予約対応も1人で?

 顔が見える関係を大事にしたいので、私が受けます。プレイガイドだと気軽に予約してもらえますが、キャンセルも気軽にできてしまう気がして。芸や演者への敬意はもちろん、この日を大切にしようと動く人たちの思いや1席のチケットの重みを感じてほしい。


予約の方法を電話で丁寧に説明する上村さん

――公演の案内メールもパンフレットもアツいですね。

 この文章に共感するお客さんが来てくれたらという願いを込めるうちに、文字が多くなるんですよ。私はお客さんを「神様」ではなく、一緒にいい公演をつくる「同志」だと思っています。予約や鑑賞のマナーを含め、偉そうですが「客を育てる」のも主宰者の責任。いいお客さんが増えれば会を動かす力になるし、そんなお客さんに「博多活パラ」も育てられます。


会場で配布するパンフレットの解説は公演前日まで悩み抜くことも

――今後、「博多活パラ」でやりたいことは?

 無声映画の世界は奥が深いので、いろいろな作品やテーマをやりたい。毎回、個性の違う弁士を呼んだり、楽士の生伴奏を入れたり。同じ作品でも新しい魅力を発見できますから。


第4回公演で登場する片岡一郎弁士(本人提供、撮影:安達英莉)


 12月16日(木)の第4回公演は九州初登場の片岡一郎弁士を招いて、師走らしく「忠臣蔵」の作品を中心に上演します。時代劇研究家の春日太一さんの解説で、忠臣蔵の物語の背景や裏側を知ると、映画が一層面白くなりますよ。17日(金)の後夜祭トークショーも物語のフカボリを楽しむ趣向。今回は福岡、熊本、小倉、大分と巡回する九州ツアーに挑戦します!

――上村さんの人生において、語り芸とはどんな存在ですか。

 一生追いかけ続ける趣味です。自分が楽しむことも、みんなで楽しむ場をつくることもずっと大事にしたい。私は記者としてさまざまな人に会って得難い経験を重ねていますが、それは個人より会社の名刺の力が大きいんです。定年退職して「何者でもない私」になっても文章は書き続けたいし、趣味とライフワークに心を燃やして生きたい。語り芸は生涯、私の探究心を熱くするものだと思います。


公演当日は進行や演出の調整に駆け回り、自身が楽しむ時間はわずか



イベント名 第4回 博多活弁パラダイス~片岡一郎独演会
弁士:片岡一郎
ゲスト:春日太一(映画史・時代劇研究家) 
開催日時 12月16日(木) 18:00開演(17:30開場)
開催場所 福岡市美術館 ミュージアムホール
(福岡市中央区大濠公園1-6)
料金 一般予約:3500円(当日:4000円)
※予約で満席の場合は当日券なし
予約・問い合わせ 博多活弁パラダイス実行委員会
メール、電話(090−9570−4579=上村)で
公式SNS 博多活弁パラダイス実行委員会

※12月17日(金)、出演者2人によるトークイベント「忠臣蔵の楽しみ方」を開催


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