「スパイスは永遠」 魅力を発信し続ける80歳の料理研究家
記事 INDEX
- 豊かな香りが広がる店内
- 夫婦でカレーに向き合う
- 人生を終えるときも一緒
カレーを中心に幅広い料理で重宝され、注目が高まっているスパイス。その魅力を40年前から発信している女性が福岡県久留米市にいます。今年80歳をむかえた料理研究家の吉山武子さん。現在の人気の礎を築いたともいえる道のりを聞くために、吉山さんが主宰するスパイス専門店「TAKECO1982」を訪ねました。
豊かな香りが広がる店内
店は久留米市通町の昭和通り沿いにあります。吉山さんのラッキーカラーだという青と黄色を基調にした店内は、食欲を誘うスパイスの香りが広がり、オリジナルブレンドのスパイスやドレッシングなど様々な商品が並びます。
ランチタイムに提供するカレーは、化学調味料や添加物は使わず、地元産にこだわった食材と複数のスパイスで丁寧に調理しています。一口食べると、うまみと深いコク、豊かな香りが口いっぱいに広がります。強い辛さはなく、体の芯から暖かくなるような優しい味わいです。
「スパイスは五感を刺激して、『頑張るぞ』という気持ちにしてくれるんですよ」と、吉山さんは話します。
夫婦でカレーに向き合う
吉山さんのスパイスとの出会いは1982年、知人の貿易会社社長が開いたスパイスカレーの料理教室に参加した時でした。スープのようにさらさらした質感や味わいはもちろん、クミンパウダーなどの香辛料から広がる香りに大きな衝撃を受けたそうです。このカレーを広めたいと、社長の料理教室の手伝いを始めました。
やがて独立し、移動料理教室を自ら開講。オーストリアのウィーンで料理を学んだ先生の教室へ通うなどスパイスの勉強も続け、カレーにとどまらない様々なレシピを作りました。
当時はスパイス自体がまだ珍しい時代。はじめはおいしさを理解してもらえず苦労したといいます。夫の進夫(のぶお)さんとともにイベントなどへ参加し、教室も少しずつ人気に。「台所で何種類ものスパイスを混ぜ合わせるのは大変」という声にこたえて、進夫さんがブレンドした「吉山式カレー粉」も完成させました。
福岡県の旧犀川町(現・みやこ町)で1000食分のカレーを作ったり、カレー店をプロデュースしたり、大きな事業にも携わりました。吉山さんは「スパイスを仕事にするのは決して甘くないけど、(自分の仕事を通じて)こんなにスパイスが広がっていくんだと感じて楽しかったです」と振り返ります。
人生を終えるときも一緒
60歳代後半になると、体力の限界を感じることが増えた吉山さん。引退を考えましたが、食品会社を経営する姪の荻野みどりさんから「スパイスの仕事を辞めないでほしい」と説得を受けます。吉山さんが73歳の時、荻野さんの会社がスタッフを雇って経営する形で、「TAKECO1982」がオープンすることになりました。
現在は、二人三脚で歩んできた進夫さんの介護をしながら、店にときどき顔を出しています。今年8月には、「80歳のスパイス屋さんが伝えたい人生で大切なこと」(KADOKAWA)と題した本も出版しました。これまでの人生を振り返りながら、多彩なレシピを掲載しています。
これからの目標は"YouTuberデビュー"です。働く女性のために手軽にできるスパイス料理を発信することを目指しているそうです。
「40年とは夢にも思っていませんでしたが、進夫さんのおかげで大好きなスパイスの仕事を続けてこられました。人生を終えるときもスパイスと一緒です。スパイスは永遠――。そう思っています」
店名 | TAKECO1982 |
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所在地 | 久留米市通町102-10 |
営業時間 | 木~日曜 11:00~17:00 (ランチは11:30~14:30ラストオーダー) |
公式サイト | TAKECO1982 |