気まぐれな猫店長がおもてなし 脊振山麓の隠れ家カフェ
記事 INDEX
- 保護猫の「はんぺん丸」
- のんびり"2人"の時間
- 「焦らず距離を縮めて」
佐賀との県境に近い脊振山系のすそ野。福岡市早良区石釜で猫が"店長"を務める喫茶店「カフェと間 koya」が、知る人ぞ知る隠れ家的スポットとして注目されている。
保護猫の「はんぺん丸」
四方を山に囲まれ、四季折々の自然の表情を間近に見ることができるカフェ。眼下には棚田が広がり、屋外にあるハンモックやテーブルで一息つきながらお茶を楽しめる。耳をすますと、鳥のさえずりや、鈴虫の声が聞こえる。「日常と一線を画して、ちょっぴり優雅な気分に浸れる」と、口コミなどでじわりじわりと人気が広がった。
カフェの店長は、ふっくらと丸い5歳の白猫「はんぺん丸」。福岡県春日市の春日公園で生後数か月の時に拾われた「保護猫」だ。白い体に"焼いたはんぺん"のような模様がついていることから、そう名付けられた。
気ままな店長はときどき"職務放棄"するとのことで、「げぼく兼スタッフ」という川口香奈絵さん(47)が店を切り盛りする。店内に貼られた店長の履歴書には「げぼくが頼りないので、ぼくが店長として監督し、広報、接客、警備をやる」とある。
のんびり"2人"の時間
店の一角には、絵本のコーナーも。「絵本だと、お茶をしながら気軽に読めるし、疲れている人にもすっと入りやすい」と川口さん。希少価値のあるものや手触りのよいものなど、全国から集めたこだわりの絵本は猫がテーマで、およそ100冊が並ぶ。「はんぺん丸」をモデルにしたハンドメイドのグッズなども販売している。
川口さんが「はんぺん丸」とカフェを開いたのは2020年。九州大学を卒業後、それまで大野城市役所で公務員として働いていた。周囲には「安定したいい仕事なのに、辞めるのはもったいない」と反対する声も多かったという。
それでもカフェを開き、「振り子時計のようにのんびりしたリズムで暮らしたい」と自身の思いを通した。「イチかバチか」で後先はあまり考えず、退職金で店舗兼自宅のこの土地を購入した。
カフェを初めて訪れる客からも「(この少ない客足で)やっていけるのですか?」と心配されるそうだ。「ぜいたくをしなければ、猫と私1人なら、なんとかやっていけますよ」とほおを緩める。
「焦らず距離を縮めて」
「疲れている人には、街にあふれる娯楽よりも、森の中で自然を感じ、鳥の声を聞きながら、ぼんやりする時間こそが必要なのでは」と話す。
のんびり暮らす猫の様子を間近に見ることで、「『あなたもただ、いるだけでいいんだよ』とささやかれているようで、癒やされる人も多いのかもしれませんね」と川口さん。ギャラリーを兼ねたレンタルスペースもあり、里山が一望できるカフェに隣接したコンテナの部屋を1日3000円で利用できる。
川口さんは「人気の店長ではありますが、なにしろ気まぐれな性格で、2階のプライベートルーム(ロフト)にこもることもしばしばです。焦らず回を重ねて訪ねてもらい、距離を縮めていってくださいね」と笑顔を見せた。