お寺で楽しい時間!「こがえる寺」と親しまれる飯塚の正法寺
記事 INDEX
- 如意輪寺と”兄弟”の間柄
- 様々な演出でおもてなし
- 小さくても個性で存在感
福岡県飯塚市の正法寺は、境内のあちらこちらにカエルの置物があり、「こがえる寺」の愛称で親しまれている。カエルの口から出てくる無数のシャボン玉や、カラフルな短冊とともに揺れる風鈴が参道を彩る。祈りの場としてだけでなく、パワースポットとしても県内外から注目されている。
如意輪寺と”兄弟”の間柄
「カエルと風鈴の寺」といえば、福岡県では小郡市の如意輪寺(通称・かえる寺)が知られている。聞けば、如意輪寺の住職とは兄弟という。”本家”のかえる寺は、境内に大小1万個を超える置物があり、年間約30万人が訪れるという人気スポット。一方の正法寺は「こがえる」の名前が示す通り、かなりこぢんまりしている印象だ。
住職の原口性亮(しょうりょう)さん(43)によると、寺は1世紀ほど前につくられた八坂寺を起源とし、1947年に正法寺と改称された。檀家(だんか)を置かず、近所の人たちが朝晩にお参りし、福岡市などから家族連れらが訪れる寺として愛されている。
福岡市からは車で1時間ほど。寺の入り口には「ようこそ」の看板があり、丸い形がかわいらしい「お願いかえる」が並んで迎えてくれる。そばにはペンが置かれ、隙間のないほど書き込まれた願い事が、カエルの体を埋めつくしている。
様々な演出でおもてなし
「かえる七福神」が並ぶ階段を上る途中には、大人の背丈ほどの「握手かえる」があり、力士のような大きな手を握って写真撮影ができる。見上げると、5月下旬に設置したばかりの風鈴が涼しげな音色を奏でていた。短冊に願い事を書いて奉納されたもので、屋外さらに廊下の天井と本堂までの間に約1000個が揺れている。
風鈴は5月おわりから9月にかけて飾られるが、ほかの季節には、中に造花を入れた透明なプラスチック製の球体が境内を幻想的に演出する。正月は鮮やかな紅白の花、春は桜、秋にはコスモスと季節に合わせた造花を選ぶ。住職の妻・陽美さん(42)のアイデアで、「シャボン玉にお花が入っているみたい」と女性にとくに好評だという。
階段を上った先にある本堂のそばでは、ピンク色のカエルの口からシャボン玉が噴き出している。小高い丘の中腹にある正法寺。本堂にたどり着いた参拝者を「ごくろうさま」とねぎらう一服の清涼剤のような存在だ。
このカエルのシャボン玉、実はリモコンで操作しているという。以前は、如意輪寺と同じように、センサーが人に反応して作動していた。
しかし住居を兼ねた小さな寺は、本堂のすぐ隣に台所があり、参道は近隣住民の生活道路でもあるため、参拝目的ではない人が通ったときもシャボン玉が宙を舞う。この”サービス”に戸惑う人もいたため住職夫婦で話し合い、参拝者がやって来るタイミングを見計らってリモコンを操作する方法に改めたそうだ。
石像などを除くカエルのほとんどは奉納されたもので、約2000個を数えるようになった。お守りやグッズなどが並ぶ「かえる部屋」に、参拝者が持参したカエルを残していき、その数は増え続けている。
小さくても個性で存在感
正法寺にはカエルのほかに、知る人ぞ知る”顔”がある。寺で飼っている2匹の猫だ。如意輪寺のトイレに捨てられていた「しょう」(雄1歳)はおっとりタイプ。少々気が強い「キキ」(雌8歳)は、「飼えなくなった」と相談を受けて引き取った。
「しょうちゃん、いますか?」と、猫に会いに来る女性もいるとのこと。本堂の畳の上と住職の膝元がお気に入りの場所で、「かわいがられ方を知っとるけんね」と原口さん。「しっかり仕事もしてくれます」と温かく見守られ、家族の一員のように過ごしている。
小さな寺が個性を打ち出す背景には「何もしなければ誰も足を運んでくれない」という危機感がある。「お寺の数は7万以上あり、コンビニより多いと言われます。『来てよかったな』と思ってもらえる寺にしなければ生き残れない」と原口住職は話す。
最近はカエルをあしらった御朱印が評判だ。多い日には100件ほどのリクエストがあり、「ごはんも食べられないほど」の忙しさだという。如意輪寺とコラボした御朱印も用意し、両方の寺に足を運んでくれる人も増えているそうだ。
6月6日は「ケロ(6)ケロ(6)」という鳴き声にちなんだ「かえるの日」――。令和6年の今年は、「6」が三つ並ぶ特別な記念日だ。正法寺では、「かえるの日」限定の御朱印のほか、「はずれ」なしの景品を用意して参拝者を迎えることにしている。