世界に「神社」を発信! 八女・福島八幡宮がメタバースに出現

メタバース上に開設した福島八幡宮を紹介する宮司の吉開さん(左)と権禰宜の河津さん
記事 INDEX
- 現実世界とつながる!
- デジタルで神社を再興
- 自治体にも導入広がる
福岡県八女市の中心部に鎮座し、360年以上の歴史を持つ福島八幡宮が、インターネットの仮想空間「メタバース」に境内を再現し、パソコンやスマートフォンを使って世界中どこからでも参拝できるサービスを始めました。同八幡宮は斬新なデザインの御朱印やお守り、SNSによる情報発信などで参拝者を増やしており、宮司の吉開雄基さん(31)は「神社を世界に広める新たなコンテンツにしたい」と意気込んでいます。
現実世界とつながる!
メタバースの福島八幡宮は、社殿や社務所といった建物だけでなく、石段や樹木まで細かく再現されています。画面上でアバターと呼ばれる分身を操作し、境内をくまなく探索することが可能で、クイズやカード集めなどのミニゲームを通して神社の文化や歴史を学べるほか、参拝や手水(ちょうず)の作法も"体験"できます。
「福島八幡宮を広く知ってもらい、実際にお参りしていただくことにつなげたい」。こう語るのは、監修した権禰宜(ごんねぎ)の河津一郎さん(54)です。開発にあたっては「単なるゲームで終わっては意味がない」との思いから、メタバース上の授与所からオンライン授与所にアクセスできるようにして利用者が実物の御朱印やお守りを申し込めるようにするなど、現実世界とのつながりも大切にしたそうです。
デジタルで神社を再興
取り組みの背景には、地域の神社を後世にわたって残したいという神職らの強い思いがあります。全国に約8万社あるとされる神社は、氏子の高齢化や若年層の「神社離れ」などから、20年後には半数ほどに減るとの試算もあるといいます。
1661年(寛文元年)に創建された福島八幡宮は、勝運の神として知られる応神天皇を祭っていることから、仕事の成功や商売繁盛を祈願する商人らの信仰を集めてきました。しかし、吉開さんが父の他界を受けて後を継いだ8年ほど前には、1日の参拝者が10人程度、収入の柱となる初穂料も年間約300万円と、廃止の危機にあったそうです。
ウェブコンサルタントの仕事をしていた河津さんは知人を通じて吉開さんの依頼を受け、神社のホームページ制作に着手し、X(旧ツイッター)やインスタグラム、TikTokなどのSNSも始めました。コロナ禍では、リモートで行う「オンライン祈祷(きとう)」や、SNSで若い人の支持を集めた御朱印をネットを通じて届ける「オンライン授与所」といったサービスにも乗り出しました。
現在、福島八幡宮を訪れる参拝者は年間10万人を超え、台湾など海外の人も増えているそうです。メタバースの福島八幡宮は今のところ、日本語と英語のみの対応ですが、今後は多言語対応を進めていく方針です。
革新的ともいえる福島八幡宮の取り組みに対しては、批判的な声が上がることもあるといいます。しかし、吉開さんは「神社に与えられた役割は様々ありますが、なくなってしまっては何もできなくなる。神社を後世に残していくため、世界一を目指していきます」と力を込めます。
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自治体にも導入広がる
全国に先駆けて、メタバースでの参拝を始めたとされるのは、福岡市中央区の鳥飼八幡宮です。2023年6月の開設以来、4万人余りが利用しました。担当者は「話題にはなりましたが、目に見えて実際の参拝につながったとは言いがたい。メタバースを使う人が現実の神社に何を求めているのかを考えていく必要がある」と分析します。
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一方で、行政が活用に乗り出すケースも広がっています。鹿児島県日置市では2023年に、吹上浜や戦国武将・島津義弘を祭る徳重神社など、市内の名所15か所を再現したメタバース「ネオ日置」を始めました。
観光案内だけでなく歴史ファンを集めた交流イベントなども実施し、約3万人が利用しました。現在は新たなプラットフォームへの移行を目指してクラウドファンディングで資金を募っており、担当者は「関係人口増加に向け、大規模イベントなどを通じてコミュニティーを広げたい」としています。
山口県では、県内に本社や工場を置く企業が仮想空間にブースを設け、訪れた人に動画やクイズを通じて自社の取り組みなどをPRできる「やまぐちメタワールド」を23年から公開しています。県によると、出展者数、利用者数とも年々増加しており、9月から始まった第3弾(2026年3月まで)では、約60社が出展しています。