博多湾に立つ鳥居 日本書紀に登場する御島神社と新しいまち
記事 INDEX
- 神功皇后ゆかりの地
- 野鳥が飛来する干潟
- 新旧が同居する空間
福岡市東区にある商業施設に出かけた際、海に立つ鳥居が目に留まった。香椎宮の末社・御島(みしま)神社だ。和白干潟も広がる博多湾の奥部。そばには人工島「アイランドシティ」ができ、タワーマンションをはじめ新しい高層ビル群がそびえる。
神功皇后ゆかりの地
海に鳥居、高層ビル、そして夜景――。"映える写真”を求めて訪ねたこの場所は、かつて万葉集にうたわれ、日本書紀でも伝えられている。見上げると福岡都市高速・アイランドシティ線が走り、新しい住環境を生み出す取り組みが進む。昼と夜、干潮・満潮、それぞれの表情を見に干潟の周辺へ足を運んだ。
香椎宮によると1800年ほど前、朝鮮半島への出征を前に、神功皇后が御島神社のある岩礁で航海の無事を祈り、海に身を沈めた。その後、陸に上がった皇后は男性のような装いに変わっていたという。このいわれから近くの海岸を「片男佐(かたおさ)」と呼ぶようになったそうだ。
干潟に注ぐ香椎川には「片男佐橋」が架かっている。橋の近くにある団地の芝生広場には、かつて「一の鳥居」と呼ばれた鳥居がぽつんとたたずむ。昭和初期までは香椎宮の楼門前にあったが、車との接触事故などがあり、現在地に落ち着いたという。
福岡市によると、江戸時代、干ばつに見舞われると御島神社のある岩礁で雨乞いをし、必ず雨に恵まれたとの記録も残っているそうだ。今も旧暦の8月15日には例大祭が開催され、香椎宮の神職が干潮時に歩いて岩礁へ渡り、神事を執り行っている。
野鳥が飛来する干潟
一帯には2013年、1周約3キロの遊歩道「御島グリーンベイウォーク」が整備された。このうち、アイランドシティと香住ヶ丘を海上で結ぶのが「あいたか橋」で、長さ約430メートルと自動車が通らない人道橋としては国内最長規模という。
あいたか橋の名称は公募で決められ、「散歩しながらいろんな人が出会える橋に」との思いを「会いたい」という博多弁に込めたそうだ。夜になると、点灯した橋の先に広がるアイランドシティのビル群が、近未来都市のように見える。
「あそこにいるのは、クロツラヘラサギですよ」。双眼鏡を首にかけた八坂哲雄さん(82)に背後から声をかけられた。肉眼では気づかなかったが、望遠レンズで見ると3羽の姿を確認できた。
4年ほど前に干潟の近くに転居し、海辺を散策するのが日課だという。10月中旬に和白干潟に飛来したというクロツラヘラサギ。現在は毎日のように、御島神社の祠(ほこら)の付近で羽を休める様子が見られるそうだ。
「干潟に集まる鳥にはまってしまいました」と八坂さん。観察しているうちにカメラの楽しさを知り、600ミリの超望遠レンズを三脚に据え、4時間ほど粘る日もあるとのことだ。
新旧が同居する空間
干潟では2023年度、シギやチドリ、ミヤコドリなど約100種類の野鳥が確認されている。都市と緑、海が調和する一帯は、御島神社を包み込むようにつくられた憩いのエリアのように感じられた。
アイランドシティにはマンションや戸建て住宅など6600戸が完成し、10月末現在で1万5700人が生活している。福岡市によると31年度に道路などのインフラが完成する予定で、健康管理の複合施設や、物流倉庫などの建設も進んでいるそうだ。
空がオレンジ色から濃い青色に変わっていく。仕事帰りだろうか、海上の鳥居に向かって手を合わせる人の姿があった。高層マンションの照明がともり始めると、鳥居は夜の闇に包まれていった。カメラのモニターには、近代的なマンション群と古い鳥居が干潟の先に"同居"する幻想的な空間が映し出されていた。