古き良き時代へ 月に1日だけ遊べる「昭和」のゲームコーナー
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懐かしいゲーム機などが並ぶ「アミューズメントミニ博物館」
記事 INDEX
- レトロなゲームがずらり
- 日本のカルチャーを残す
- 遠い日の記憶が鮮やかに
1960年代の「クレーンマシン」、パイオニア製の「うそ発見機」――。"昭和生まれ"を中心とする懐かしいゲーム機などが並ぶ「アミューズメントミニ博物館」が福岡県小郡市に誕生した。調べてみると、営業は月に1日だけで、1度に入れるのは2人までだという。興味をそそられ、2月の開館日に訪ねてみた。
レトロなゲームがずらり
博物館は青い外壁が目印だ。カプセル販売機などのレンタル業を営む原田一毅さん(43)が2024年10月、西鉄小郡駅の近くにある築60年超の元洋裁店を改装してオープンした。
かつて住居だった2階の狭いスペースには、昭和から平成初期にかけて子どもたちが夢中になったゲーム機など約60点が所狭しと並ぶ。懐かしいゲーム機に"再会"できるだけでなく、一部は当時と同じように10円から100円で楽しめるのが魅力だ。
まず目に入るのは、国内に10台程度しか残っていないという1960年頃のクレーンマシン。10円玉を入れ、ハンドルを操作しながらクレーンで景品をつかみ取る。電子制御とは無縁のレトロなゲーム機。今となっては、どこの会社が作ったのかも分からない。
押し入れだった場所には、かつて喫茶店などで目にした「おみくじ販売機」や、電池で動く「うそ発見機」がある。後者は機器に指先を置き、うそをあぶり出す趣向のようだ。「おそらく指先の汗など通電の感度で判断するのでしょう」と原田さんが"解説"してくれた。
置いているゲーム機のほとんどは、オークションで集めたものだ。廃業した駄菓子屋などが手放すケースが多いが、落札できても運搬が一苦労だという。関東地区からの出品が大半で、引き取りが困難で入手をあきらめることも少なくないそうだ。
無事に手元に届いても「ほとんどの機器は作動しない」という。そこで、ガチャのメンテナンスを行っている原田さんの技術と経験が生きてくる。「設計図は残っておらず、見たことのない回路も多い」が、類似のセンサーやモーターを探して交換すれば、息を吹きかえす。「試行錯誤の繰り返しです。いつも部品を探していますよ」
日本のカルチャーを残す
2階には重さ30キロ以上の展示品も置いているため、1度の入館は2人までに制限している。開館日を限定しているのは、原田さんがガチャを中心とする"本業"で忙しく、「月1回が限界」だからだ。
そのため開館以来、客を迎え入れたのはまだ5回。宣伝も原田さんのブログで行っている程度だ。だからだろうか、ミニ博物館を訪れる人はやはり少ない。入館料300円で、1回10円で遊べるゲームがほとんど。これで施設を運営できるのだろうか、おそるおそる聞いてみた。
「もちろん、利益は追求できません。入館料も電気代で消えてしまいます」ときっぱり。古い機器を集めて修理し、低料金で楽しめるようにしている背景には「日本で生まれ育った独自のカルチャーを残したい」という強い思いがあるようだ。
名前も知られていない小さなメーカーがなくなると、子どもたちに愛されたゲーム機も姿を消し、いつしか忘れられていく――。ゲーム機を扱う仕事に就き、そうした場面を目の当たりにして、「このままでいいのだろうか」と焦りにも似た感情が芽生えたという。
遠い日の記憶が鮮やかに
訪れた2月初め、14時の開館を待つ女性の姿があった。急用が入った息子に代わって訪れたという小郡市の山下晴子さん(71)で、赤い球形のおみくじ販売機を見つけると「喫茶店に置かれていましたね。結婚前の頃を思い出しました」と笑顔を見せた。
撮影を終えて、パチンコ玉をゴールの穴に入れる「サーカス」というゲームに挑戦してみた。こちらも国内に10台ほどしか残っていないという1978年頃の貴重な遊具だ。指先の微妙な感覚が大切で、「ふりだしに戻る」を3度繰り返し、ゴールには到達できなかった。
ふと思い出したのは、10円玉をレバーで弾いて転がし、落とし穴を避けながら東京駅から博多駅を目指す「新幹線ゲーム」。一度だけ、あと一歩のところまで行けたことがある。弟が隣で見守る中、小刻みに震える指を最後のレバーにかけた――。あの懐かしい思い出が、何十年ぶりかによみがえった。ミニ博物館を訪ねていなければ、おそらく記憶の奥底に眠ったままだっただろう。
次の開館は3月2日。身の丈に合う「ほどよい状態で続けていければ」という原田さん。以降の開館日は仕事のスケジュールと調整しながら決めていくそうだ。