突き付けられたコロナ禍の分断 日本から投じたトランプ対バイデン
記事 INDEX
- 顕在化したアメリカの分断
- もし新型コロナがなかったら
- コロナが突きつけた自身と祖国の将来
アメリカ大統領選挙は民主党のバイデン前副大統領が勝利を確実にしました。米国バージニア州出身で、北九州市立大学准教授のアン・クレシーニさんに今回の大統領選について聞きました。 ※インタビューはバイデン氏の勝利演説を受け、11月9日に行いました。
アン・クレシーニさん
北九州市立大学准教授。福岡県宗像市在住。米バージニア州出身。言語学者、ブロガー、テレビコメンテーター。新著に『教えて! 宮本さん 日本人が無意識に使う日本語が不思議すぎる!』。公式ブログ「アンちゃんから見るニッポン」。むなかた応援大使。
顕在化したアメリカの分断
――アメリカ大統領選挙はバイデン氏の勝利が確実となりました。今回の大統領選をどのようにご覧になりましたか。
メディアでも盛んに報じられていますが、アメリカの「分断」をこれほど感じた大統領選は過去にありません。
バイデンさんが勝利を確実にしていますが、接戦だったことからも、双方の分断の根深さを感じます。
――先生は投票されましたか。
出身地のバージニア州の郵便投票をしました。今回、郵便投票はかなり話題になりましたね。私のも実際に届いてるといいけどね。
バージニア州は首都ワシントンに接し、政府機関で働く人も多く住んでいます。実は、CIA(中央情報局)やペンタゴン(米国防総省)があるのはワシントンではなくバージニアです。そういった都市部では民主党が、州西部の地方では共和党がそれぞれ強いですね。
編集部注釈:今回の大統領選でバージニア州は、州都リッチモンドや主要都市ノーフォーク、首都ワシントン近郊などでバイデン氏が圧勝。一方、州西部など地方部はトランプ氏が優位だった。
(参考:読売新聞オンライン アメリカ大統領選挙2020)
――バージニア州ではオバマ政権が誕生した2008年の大統領選挙以降は民主党候補が連続で勝利しています。
バージニア州はもともと保守的なキリスト教徒が多く住む地域だったので、「人工妊娠中絶の反対」「同性婚の反対」という、いわゆる保守派の二大主張が投票行動に影響を与えてきました。
近年、都市部の若い人を中心に、無宗教の人が増えています。日本人が言う「無宗教」とは少し違うのですが、民主党候補が勝利するようになってきたのも、無関係ではないと見ています。
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もし新型コロナがなかったら
――接戦になりました。
今回の大統領選は、多くのアメリカ人がだれに投票すべきか、かなり悩んだと思います。私もその一人です。
正直に言うと、どちらの候補者もあまり好きじゃない。でも、どちらかを選ばないといけないから悩みました。そういうアメリカ人は多かったのではないでしょうか。
――アメリカの分断が顕在化しました。
以前は「選挙は選挙」でしかなかったのですが、例えば今だったら「トランプに投票するなんて!あなたは差別主義者?」など、投票する人の人間性まで問うことが増えたように感じます。
SNSの投稿は辛辣(しんらつ)なものも多く、双方のバトルも激しさを増しています。メディアの両極端な報道も目立つようになりました。
今のアメリカは傷ついている状態。早くこの分断を融和させてほしい。一人のアメリカ人として悲しいし、不安感を抱いています。
――新型コロナウイルスが大統領選挙に与えた影響は?
トランプ政権の新型コロナ対応は各国と比較してもひどかった。多くのアメリカ国民がそう感じています。もしトランプ大統領がマスクをして科学的な対策を講じていたら、選挙結果も変わっていたでしょうね。
コロナが突きつけた自らと祖国の将来
――先生はアメリカにいつから、戻れていないのですか。
昨年6月に戻ったきりです。今年3月に父が亡くなりましたが、アメリカへ渡ると日本への再入国が困難です。家族で葬儀をあげたいのですが、来年になるでしょうね。
日本政府は日本の在留資格がある人も含め、外国人の入国を原則として認めてきませんでした。9月にようやく全面解禁されました。永住者は生活基盤もすべて日本にあるわけだから、日本人と同じ対応でいいはずです。
たとえ夫婦であっても、国籍の違いだけで再入国できたりできなかったりしたわけです。仕事もない、住む場所もないアメリカで、何かのきっかけで再入国ができなくなったらと思うと怖いですよね。だから、今はアメリカには行けません。
私としては日本を愛し、アイデンティティーも日本人になってきたと思っています。けれど、コロナ禍において、再入国の問題などで「外国人なんだ」と思い知らされました。今、日本国籍を取得することも考えています。
――新政権は大統領選で生じたアメリカの傷を癒やせるでしょうか。
基本的なことに立ち返りますが、他人の意見を聞き、他人の意見を尊重することが重要です。双方が譲り合うことがすごく大事なんだと思っています。
例えば、意見が分かれる同性婚などについても、法制度と個人の信念は分けて考えるべきで、「法制度としてLGBTQの権利は認めますが、聖書的立場や個人的な信念としては認めたくありません」という考え方があってもいいだろうと思います。異なる意見も、双方が歩み寄れるはずです。
アメリカでも支持政党を持たない無党派層が増えています。メディアで取り上げられるような民主、共和の支持者はむしろ減っているのです。
大統領選での分断を悲しく思っています。ただ、意見の衝突そのものが悪いわけではありません。互いが意見をぶつけて学ぶことによって、多様性が生まれてくるのですから。新政権にはアメリカの融和を期待したいですね。