アートで照らそう地域の未来 「宗像みあれ芸術祭2025」が開幕

宗像大社の森に輝く、鏡でできた四つ葉のクローバー

 宗像大社(福岡県宗像市)の秋季大祭「みあれ祭」に合わせて、「宗像みあれ芸術祭2025」が10月1日に幕を開けた。森と海が交わる世界遺産の地で開催される文化芸術イベントは今年で4回目。宗像大社や宗像ユリックス古墳広場など市内各所で多彩な作品が披露され、見て、触れて、アートを五感で楽しむことができる。20日まで。

いのちを結ぶ

 テーマは「いのちを結ぶ」。全国から選ばれた4組の作家を軸に、地元の子どもたちも加わり、ともに「地域の未来を耕す」イベント。宗像大社では開幕前日の午後まで仕上げの作業が続いた。


開幕前日の境内で、園児たちが作家とともに作品づくりに励んだ

 今回の代表的な作品の一つは、森田設備開発が会社の壁を提供して実現した巨大ウォールアートだ。ゾウやトラが躍動する姿を描いたトリックアートで、九州産業大学造形短期大学部の学生や地域住民が筆を取り、力を合わせて描き上げた。


会社の壁をキャンバスに、ゾウやトラが描かれたトリックアート

 刈り取りを控えた田んぼの上空には、害鳥よけの鳥の模型が舞っていた。壁に描かれた動物の姿と呼応するかのように、空と壁とが一体になった作品のように見えた。


模型の鳥が田んぼの上を舞い、アートの一部のように溶け込んでいた

 メイン会場となる宗像大社を訪れると、本殿のそばに高さ2メートル、長さ7メートルのオブジェ「うちゅうせん」が鎮座していた。地元の竹を使い、鹿児島大学の細海研究室が手がけた作品で、音楽やパフォーマンスの舞台にもなるそうだ。


地元の竹を使った「うちゅうせん」

 開催前日の9月30日には、赤間くるみ幼稚園(宗像市)の園児たち70人以上が参加して、長さ7メートルの大きな布に自由に絵を描く特別プログラムが行われた。


絵の具にまみれながら夢中で制作に取り組む園児

 水の音や雅楽の音色を聞きながらイメージを膨らませる園児たち。手はもちろん、足や顔まで絵の具に染まりながら、境内の森から拾った落ち葉や、枯れ枝も筆のように使って自由に作品を描き上げていた。


落ち葉も筆に見立てて自由に描き上げた

 隣接する広場には「ブロックあそび」というタイトルの作品が設置された。色鮮やかな陶器のブロックが点在するそのたたずまいは、神聖な社の空気に軽やかなリズムを刻むかのようだ。


本殿そばに点在する色鮮やかな陶器のブロック

 参拝を終えた家族連れがブロックの存在に気づくと、子どもが一目散に駆け寄って、登ったり、持ち上げようとしたり。境内に笑い声が響き、夏の名残の暑さも忘れさせてくれるひとときとなった。


暑さを忘れ、笑顔で駆け回る子どもたち



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感動を力に!

 森を抜けて高宮祭場へと向かう。沖ノ島と並び宗像大社境内で最も神聖とされる場所だ。参道の木々の隙間から、鏡やガラス、鈴を用いたオブジェがきらめいているのが見えた。太陽の光を受けて輝き、風に揺れては涼やかな音色を響かせている。


鏡やガラスを使ったオブジェが森の中で風に揺れる


 森の巨木の根元には、鏡で作った1000本ほどの四つ葉のクローバー。森の風景に溶け込み、頭上の木々の緑を映しながら、巨木をやさしく包み込んでいるようだった。


巨木の根元を彩る、鏡で作った約1000本の四つ葉のクローバー

 坂道の途中、ふと足元を見ると、小さな青い人形が木の根元にひっそりとたたずんでいる。さらに歩を進めると、切り株や落ち葉の上にも姿を現した。


切り株の上に現れた、森の妖精のような小さな人形


 森に潜む妖精のような小さな人形たちとの出会いは、厳かな雰囲気の中に温かな驚きを添え、宝探しをしているような楽しさを味わうことができた。


落ち葉の上にたたずむ人形

 この芸術祭の特色は、単に鑑賞するだけでなく、訪れる人が作品に触れ、参加できる仕掛けが随所にあることだ。実行委員の青柳舞さん(44)は「子どもたちが気軽にアートに触れ、地域や世界遺産の魅力を感じ取ってくれたら」と期待する。


鑑賞するだけではなく、訪れる人が触れて、参加できる仕掛けがあるのが魅力

 「みあれ(御生れ)」とは神々が新しい力を授かることを意味するそうだ。会期を終えても一部の作品は地域に残る予定だという。作品を通して芽生えた感動もまた、授けられた力を引き継ぐように、次の季節へと受け渡されていくのだろう。


高宮祭場へ続く参道は、神聖な雰囲気に包まれていた



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