「芸術の秋」配達します 福津市の現代美術家らがリヤカーで

リヤカーを引いて作品を届ける作家ら
病気などで外出がままならない高齢者らの自宅にリヤカーで現代美術作品を運び、間近で鑑賞を楽しんでもらおうという取り組み「アートデリバリー」が、福岡県福津市で始まった。同市津屋崎地区で2021年から毎秋開かれている現代美術イベント「のぞきあなART津屋崎」をきっかけに、出展している作家や美術関係者らが発案し、リヤカーを引いた。
外出不自由な高齢者に
津屋崎地区にある茶販売店の店先に10月5日、「配達中」の紙を貼ったリヤカーが止まった。店の一角で椅子に座る石橋照代さん(87)の周りに、福津市のデザイナー・三浦なおこさん(55)と長崎県から駆け付けた作家仲間ら計3人が、てきぱきと立体作品4点を並べた。
作品は牛乳箱を模した木箱や銭湯のミニチュアなど、いずれも両手で抱えられる大きさで、イベントの出展作家2人が制作。木箱は蓋を開けると中に乳牛の模型が入っているなど、作品にはそれぞれ仕掛けが施されている。石橋さんは三浦さんに促されて作品に触れ、仕掛けの精巧さと作者の世界観に感心していた。
石橋さんは店を切り盛りする一方、病気のため長距離や段差がある場所の歩行が難しく、地区内の各地に作品が展示されるイベントに出向くのは諦めていたという。この日の鑑賞を終え、「面白い体験ができた。ここまでしてもらえて本当にうれしい」と目を細めた。
ニーズある限り続ける
三浦さんらは作品の「配達」希望を地区内の他の2人からも受けており、13日にうち1人の自宅を訪ねた。11月にもう1軒に届ける予定。訪問先から観覧料は受け取らない。三浦さんは「(石橋さんが)笑顔になってくれて良かった。ニーズがある限りは取り組みを続けたい」と話す。
イベントは地区に多く残る古民家の塀の穴をヒントに、穴から作品をのぞく形式で始まり、今年は11月30日まで開催。国内外の作家約40人が参加し、14か所に作品が「隠れて」いるという。地区内の「旧田中薬局」裏の蔵で、入場観覧券と地図、作品から連想された物語集のセット(1000円)を販売している。問い合わせは三浦さん(080-3942-5505)へ。